高齢化が進む現代において、総義歯(フルデンチャー)は多くの方にとって生活の質を左右する重要な医療器具です。中でも「自費治療」で提供される総義歯は、保険診療のものに比べて素材や設計の自由度が高く、より快適で長持ちするものを選ぶことが可能です。その中でも近年注目を集めているのが「チタン床総義歯」です。

本記事では、チタン床総義歯のメリットとデメリット、さらにはコバルトクロムやレジンといった他の素材との違いについて詳しく解説します。自費の義歯を検討している方にとって、納得のいく選択の一助になれば幸いです。


そもそも「床(しょう)」とは?

総義歯は、「人工歯」とそれを支える「床(しょう)」という部分から構成されています。この床の素材によって、義歯の強度、重さ、薄さ、熱伝導性、装着感などが大きく変わってきます。

保険適用の義歯では主に「レジン(樹脂)」が使われますが、自費診療では金属を使った「金属床義歯」が選択肢に入ります。金属床にも複数の種類があり、代表的なものに「コバルトクロム床」「チタン床」「金合金床」などがあります。


チタン床総義歯とは?

チタン床総義歯は、その名の通り、義歯の床部分に「チタン(Titanium)」という金属を使用した義歯です。チタンは軽量で高強度、かつ生体親和性に優れた素材であり、人工関節や心臓のペースメーカーなど医療現場でも幅広く使用されています。義歯においても、その優れた性質が患者にとって大きな利点となります。


チタン床のメリット

1. 圧倒的な軽さ

チタンの最大の特徴は「軽さ」です。同じサイズの金属床義歯でも、チタンはコバルトクロムに比べて約40〜50%も軽く仕上がります。義歯の重さは顎の骨や粘膜への負担につながるため、軽量であることは非常に重要です。長時間の装着でも疲れにくく、発音や咀嚼の安定性も向上します。

2. 高い強度と耐久性

チタンは軽いだけでなく、非常に高い引張強度を誇ります。薄く加工しても変形や破損のリスクが低いため、装着時の違和感を最小限に抑えられます。また、金属疲労にも強く、長年使用しても劣化しにくいのが特徴です。

3. 優れた生体親和性

チタンはアレルギーを起こしにくく、体内で異物反応を起こしにくい金属です。金属アレルギーが心配な方でも、比較的安全に使用できます。また、口腔内での腐食にも強く、金属イオンの溶出による味覚への影響もほとんどありません。

4. 熱伝導性の良さ

金属床全般に言えることですが、レジンと比較して熱伝導性が高いため、飲食物の温度を舌で感じやすくなります。これは「おいしさ」を感じるうえで非常に重要で、食事の楽しみを損なわずに済みます。


チタン床のデメリット

1. 製作コストが高い

最大のデメリットは「価格」です。チタンは素材自体が高価であり、加工にも高度な技術が必要なため、義歯の価格も高額になります。自費診療となるため、保険診療に比べて数倍の費用がかかることが一般的です。

2. 修理・調整が難しい

チタンは加工が難しい金属であるため、破損や調整が必要になった場合、専門の設備がある歯科技工所での対応が必要です。即時修理が難しいケースもあり、時間と費用がかかることがあります。

3. 加工・製作技術の差が出やすい

チタンの加工には専門的な知識と設備が不可欠です。そのため、歯科医師や技工士の技術力によって仕上がりに差が出る場合があります。経験豊富な技工士に依頼できるかどうかも、成功のカギとなります。


他の素材との比較

項目チタン床コバルトクロム床レジン床
重さ非常に軽いやや重い重い
強度非常に高い高い低い
薄さ非常に薄い薄い厚くなる
生体親和性非常に高い中程度高い
熱伝導性高い高い低い
アレルギーのリスクほぼなしややありなし
価格高い(自費)比較的安価(自費)安価(保険)

レジン床は保険診療で作製可能ですが、分厚く、重く、破損しやすいというデメリットがあります。一方、コバルトクロム床はコストパフォーマンスに優れており、多くの自費義歯で採用されていますが、チタンに比べるとやや重く、アレルギーリスクもあります。


まとめ:チタン床は「快適さと安心感」を求める方に最適

チタン床総義歯は、軽くて強く、長く快適に使える優れた義歯です。費用面での負担はありますが、毎日使うものだからこそ、「快適さ」「安全性」「耐久性」を重視する方には非常におすすめです。特に、金属アレルギーの心配がある方や、これまで義歯に違和感を感じてきた方には、一度検討していただきたい選択肢といえるでしょう。

義歯の選択は、単なる「道具」ではなく、生活の質(QOL)に直結する大切な決断です。信頼できる歯科医師と相談し、自分にとって最適な義歯を選びましょう。