~奥歯2本を失ったときの考え方~
「右下の奥歯が2本なくなってしまったのですが、インプラントは何本必要ですか?」
診療室でよく受ける質問の一つです。
例えば、右下の第一大臼歯(6番)と第二大臼歯(7番)が欠損している場合、
- 6番だけにインプラントを1本入れる方法
- 6番と7番にインプラントを2本入れる方法
のどちらも理論上は可能です。

しかし、どちらが正しいという単純な話ではありません。
患者さんのお口の状態や清掃能力、骨の状態、費用面などを総合的に考えて決定する必要があります。
今回は「インプラントは1本か?2本か?」というテーマについて詳しく解説してみたいと思います。
そもそもなぜ迷うのか?
天然歯であれば、失った歯の本数だけ補うのが基本です。
つまり6番と7番を失ったのであれば、
- 6番にインプラント
- 7番にインプラント
を入れるのが最も理想的な状態です。

ところがインプラント治療では、
「本当に一番奥まで治療する必要があるのか?」
という考え方もあります。
特に7番はお口の一番奥に位置するため、
- 歯ブラシが届きにくい
- フロスや歯間ブラシが使いにくい
- メインテナンスが難しい
という問題があります。
そのため、
「6番だけ回復して7番は欠損のままでも良いのではないか」
という考え方も存在するのです。
6番だけにインプラントを入れるメリット
① 清掃しやすい
最大のメリットはこれです。
7番相当部まで人工歯が存在すると、どうしても清掃が難しくなります。

特に年齢を重ねると、
- 指先の細かい動きが難しくなる
- 口が開きにくくなる
- 頬の柔軟性が低下する
などの理由で、一番奥の清掃は徐々に大変になります。
6番までであれば比較的ブラシも届きやすく、セルフケアの負担を減らすことができます。
② 治療費を抑えられる
当然ながらインプラント1本分の費用で済みます。
インプラント治療は保険適用外です。
医院によって差はありますが、
- インプラント本体
- アバットメント
- 被せ物
を含めると1本あたり数十万円程度になることも珍しくありません。
2本を1本にすることで経済的負担を軽減できます。

③ 手術の負担が小さい
インプラントを埋入するためには骨に穴を形成します。
当然ながら、
- 1本埋入
- 2本埋入
では手術範囲が異なります。

一般的には2本の方が
- 手術時間が長い
- 腫れや痛みが出やすい
- 術後の違和感が大きい
傾向があります。
もちろん個人差はありますが、侵襲が少ないという点は1本埋入のメリットと言えるでしょう。
6番だけにするデメリット
① 上顎7番が伸びてくる可能性がある
これが最大の問題点です。
歯は噛み合う相手がいなくなると、少しずつ移動することがあります。
これを
挺出(ていしゅつ)
と呼びます。
右下7番が存在しない状態が長く続くと、
上の7番が徐々に下方向へ伸びてくることがあります。

最初はわずかな変化でも、
数年から十数年という長い期間で見ると、
- 噛み合わせのバランスが崩れる
- 食べ物が挟まりやすくなる
- 顎の動きに影響する
可能性があります。
② 咬合力が集中しやすい
本来6番と7番の2本で受けるべき力を、
6番相当のインプラント1本だけで負担することになります。
すると、
- 上部構造への負担
- スクリューへの負担
- 周囲骨への負担
が増加します。

天然の歯牙は歯根膜というクッションが付いていますが、 インプラントにはクッションは存在しません。ですからあごの骨に対して全く沈み込みません。 うまく噛み合わせのバランスを取らないとインプラントの歯にだけ力が集中しがちなのです。
現在のインプラントは非常に丈夫ですが、 力の集中は決して有利な条件ではありません。
特に
- 歯ぎしり
- 食いしばり
- 咬合力が強い方
では慎重な判断が必要です。
6番と7番に2本入れるメリット
① 本来の噛み合わせに近づく
最も大きなメリットです。
失った歯を失った本数だけ回復するため、
機能的には天然歯に近い状態になります。
特に奥歯は食べ物をすり潰す役割があります。
6番だけよりも、
6番・7番の両方が存在した方が咀嚼効率は高くなります。

② 力を分散できる
インプラントが2本になることで、
噛む力を分散できます。
さらに上部構造を連結する設計にすると、
1本だけで力を受ける状態よりも安定性が向上します。

特に
- 硬いものをよく食べる
- 咬合力が強い
- 歯ぎしり傾向がある
方では大きなメリットになります。
③ 上顎7番の挺出を防げる
下顎7番相当部に人工歯が存在するため、
上顎7番は適切な位置で維持されやすくなります。
長期的な噛み合わせの安定という意味では非常に重要なポイントです。
インプラント治療は10年、20年先を見据えて行う治療です。
その意味では大きな価値があります。
6番・7番に2本入れるデメリット
① 治療費が高くなる
当然ながら1本より2本の方が費用は高くなります。
患者さんにとって最も現実的な問題かもしれません。
② 手術の負担が大きくなる
埋入本数が増えるため、
- 手術時間
- 腫れ
- 痛み
はやや増加する傾向があります。
また骨造成が必要になる可能性も高くなります。
③ 清掃が難しくなる
7番相当部はお口の一番奥です。
ここを長期的に清潔に保つためには、
- 歯ブラシ
- ワンタフトブラシ
- 歯間ブラシ
などを上手に使いこなす必要があります。

インプラントは虫歯にはなりませんが、
汚れが残るとインプラント周囲炎になる危険があります。
つまり、
「治療して終わり」ではなく、「治療後の管理」が非常に重要
なのです。
結局どちらがおすすめなのか?
私自身は、多くの場合、
「2本欠損なら2本のインプラント」
を第一選択として考えています。
理由はシンプルです。
失われた機能をできるだけ元の状態に近づけることができるからです。
特に今回のように、
上顎7番がしっかり残っている場合は、
下顎7番も回復させた方が長期的な噛み合わせの安定につながります。
もちろん、
- 骨量が不足している
- 清掃に不安がある
- 全身的な事情がある
- 費用面の制約がある
場合には6番のみという選択肢も十分にあり得ます。
しかし条件が許すのであれば、
咀嚼機能、力の分散、噛み合わせの維持という観点からは、
やはり2本での回復が理想的と言えるでしょう。
まとめ
右下6番・7番が欠損した場合、
6番だけインプラント
メリット
- 清掃しやすい
- 費用が安い
- 手術負担が少ない
デメリット
- 上顎7番が伸びる可能性
- 力が集中する
- 咀嚼能力がやや低下する
6番・7番に2本のインプラント
メリット
- 本来の噛み合わせに近い
- 力を分散できる
- 上顎7番の挺出を防げる
- 咀嚼効率が高い
デメリット
- 費用が高い
- 手術負担が大きい
- 清掃管理がやや難しい
インプラント治療は「入れること」がゴールではありません。
10年後、20年後も快適に噛み続けられることが本当の成功です。

そのためには、お口の状態だけでなく、患者さん自身の清掃習慣やライフスタイルも含めて総合的に判断することが大切です。
「自分の場合は1本が良いのか、2本が良いのか?」
迷われている方は、ぜひ担当の歯科医師と十分に相談し、ご自身に合った治療計画を選択していただきたいと思います。























