「ダメになった奥歯を抜いて、そこにインプラントを入れる代わりに、親知らずを抜いて持ってくるという方法があると聞きました。そんなことできるんですか?」
――患者さんから、時々こんな質問を受けます。
実はこれは「歯牙移植(しがいしょく)」と呼ばれる治療法で、条件が整えば可能です。
インプラントとは違い、自分自身の歯を使う再生的な治療として注目されています。
歯牙移植とは?自分の歯を別の場所に移す治療
歯牙移植とは、例えば「右下の奥歯(7番)」がダメになったときに、使われていない「親知らず(8番)」を抜いて、その抜いた場所に移し替える治療法です。
インプラントのように人工物を埋めるのではなく、自分の歯を利用する点が大きな特徴です。
このとき、親知らずのように「しっかり根ができていて、虫歯が少なく健康な歯」であることが条件になります。
また、移植先の骨の状態も良好でなければなりません。

移植に使える歯(ドナーサイト)の条件
歯を提供する側の場所を「ドナーサイト」と呼びます。
このドナーとなる親知らずにはいくつかの条件があります。
- 健康な歯であること
多少の虫歯であれば削って修復できますが、歯冠(歯の頭の部分)が崩壊しているほどボロボロだと使えません。 - 形や大きさが合うこと
移植先の歯(レシピエント)と、ドナーの歯の大きさが大体似ているほうが望ましいです。
例えば、上顎の親知らずを下顎の奥歯に移す、といったように、バランスの取れた組み合わせを選びます。

成功のカギは「固定」と「安静期間」
移植した歯は、抜歯してすぐの穴(ソケット)に挿入し、できるだけ動かないように固定します。
これは非常に重要なステップで、ぐらぐらした状態だと骨とくっつきません。
● 固定方法の例
例えば「下顎の7番」を抜いて「上顎の8番(親知らず)」を移植する場合、
移植後は隣の6番の歯や下顎の8番を利用してワイヤーや糸で固定します。
歯が動かない状態を保つことで、歯根膜(歯と骨の間のクッションのような組織)が再生しやすくなります。
● 安静期間
移植した歯が骨と馴染むまでには2~3か月かかります。
その間は噛む力を極力かけず、柔らかい食事を心がけていただきます。
早い段階で無理に噛んでしまうと、動揺して失敗の原因になります。

治療期間と流れ
歯牙移植の治療は1日で終わるものではありません。
以下のようなステップで進行します。
- 移植する歯と移植先の診査(レントゲン・CT)
骨の厚みや歯の形を確認します。 - 抜歯と移植(手術当日)
親知らずを慎重に抜歯し、ダメになった歯の抜歯窩に即時に移植します。 - 固定と経過観察(2〜3か月)
この間は安静を保ち、歯の動揺が落ち着くまで待ちます。 - 根管治療(神経の処置)
生着を確認したら、移植した歯の神経の処置を行い、再感染を防ぎます。 - 最終修復(被せ物など)
咬合(噛み合わせ)が安定したら、クラウンなどで補強します。
全工程を終えるまでおよそ半年程度は見ておく必要があります。
成功率とリスクについて
歯牙移植は非常に繊細な治療で、全ての段階がうまくいって初めて成功します。
移植した歯が骨と結合しない、感染が起こる、固定が外れるなどのリスクもあります。
そのため、インプラントよりも成功率はやや低めとされています。
ただし、条件が整った症例では長期間機能することも十分可能です。
若い方や、まだ骨の代謝が活発な方では特に成功率が高い傾向があります。
歯牙移植のメリット
- 自分の歯を使える
生体親和性が高く、人工物に比べて「なじみやすい」です。 - 保険適用になる場合がある
条件を満たせば健康保険が使えるため、費用が大幅に抑えられます。 - インプラントが難しい場所にも対応できる
骨造成をしなくても可能な場合があります。 - 歯根膜が残る
インプラントにはない「歯根膜(噛んだ感覚を伝えるセンサー)」が維持できるため、自然な噛み心地を感じやすいのです。

デメリットと注意点
- ドナーとなる歯が必要
健康な親知らずなど、移植に使える歯がないと行えません。 - 成功率が100%ではない
すべての工程が理想的に進んで初めて安定します。 - 治療期間が長い
短期決戦ではなく、半年ほどかけて慎重に進める必要があります。 - 専門的な技術が必要
外科と保存修復の両方の知識が求められるため、対応できる医院は限られます。
まとめ:条件がそろえば、とても有効な選択肢
歯牙移植は、すべての人に適応できる治療ではありません。
しかし、親知らずが健康で位置も良く、骨の状態が整っていれば、インプラントに代わる素晴らしい方法となり得ます。
自分の歯で噛めるという大きな利点に加え、保険が使えることもあるのは大きな魅力です。
「インプラントしか方法がない」と思っていた方も、まずは歯科医院でCTを使った移植の適応診査を受けてみてください。
条件さえそろえば、あなたの親知らずが新しい奥歯として再び活躍してくれるかもしれません。
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