「この間治療してもらって終わった歯なのですが、ちょっとしみるんです」
歯科医院でよく耳にする患者さんからの訴えです。治療が終わったのに、冷たい水や風が当たると「ズキッ」としみる――。そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。

今回は実際のやり取りをもとに、なぜ治療後に歯がしみることがあるのか、どのように対応すればよいのかについて解説していきます。


なぜ治療後に歯がしみるのか?

虫歯の治療では、虫歯菌に侵された部分をしっかり削り取らなくてはなりません。
もし虫歯が浅ければ、削る範囲も小さくすみます。しかし虫歯が深く進行していた場合、どうしても「神経の近くまで削る」必要が出てきます。

歯の中には「象牙質」という層があり、そのさらに奥に「歯髄(神経)」があります。象牙質には無数の細い管(象牙細管)が走っていて、外部からの刺激がこの管を通って神経に伝わります。虫歯が深く、神経近くまで削った場合には、この象牙細管を通じて冷たい刺激や熱い刺激が神経に届きやすくなり、結果として 治療後の「しみる症状」 が出やすいのです。


「治療後のしみ」はよくあること?

結論から言うと、治療後のしみは珍しいことではありません
特に深い虫歯を削ったあとは、一定期間神経が敏感になってしまうことがよくあります。

これは「神経がダメになった」ということではなく、削ったことによる一時的な反応と考えられます。外科手術をしたあとに傷口がしばらく痛むのと同じで、歯の神経も刺激を受けたあとは落ち着くまでに時間がかかるのです。


どのくらいで落ち着くのか?

しみる症状の程度や期間は人それぞれですが、一般的には数日から数週間程度で軽快していくことが多いです。
ただし、すぐに完全になくなるわけではなく、徐々に弱まっていくという経過をたどります。

歯科医がよく伝えるアドバイスは「安静にしましょう」ということ。
つまり、わざと冷たいものをしみる歯に当てて確認したりせず、普段どおりの生活を送りながら様子を見ることが大切です。


必ずしみなくなるのか?

患者さんからよく聞かれる質問のひとつに「そのうちしみなくなりますか?」というものがあります。
歯科医の答えは――「確約はできませんけれども、そういったことはよくあります」。

つまり、多くの場合は時間の経過とともに神経が落ち着いてしみなくなりますが、中には症状が強くなり、神経を保護しきれなくなるケースもあります。その場合には、追加治療として「神経を取る(根管治療)」が必要になることもあります。

ですから、しみる症状が数週間たっても悪化する、夜眠れないほどズキズキする、噛むと強い痛みが出る――こういった場合には再度歯科医院を受診する必要があります。


もっと早く治療していれば防げたのか?

患者さんがよく抱く疑問に、
「もっと早く治療を受けていればこうならなかったのでしょうか?」
というものがあります。

歯科医の答えはシンプルです。「その通りです」

虫歯は進行性の病気であり、自然に治ることはありません。初期のうちに治療を行えば、削る範囲も小さくすみ、神経まで近づくこともありません。結果として、治療後のしみや痛みといった後遺症が起きる可能性はぐっと低くなります。

つまり「定期健診で早期発見・早期治療を行うこと」が、最も確実な予防策なのです。


治療後にできること

治療後のしみが気になるときにできる対処法をまとめます。

  1. 刺激を避ける
    冷たい飲み物、甘いもの、熱い食べ物をできるだけ避けてみましょう。
  2. 安静にする
    わざとしみるかどうかを試さないようにすることが大切です。
  3. 経過を観察する
    時間の経過とともに症状が弱まっていくかを確認します。
  4. 痛みが強くなる場合は受診する
    我慢できないほどの痛み、夜間のズキズキ、噛んで痛むなどが出てきたら、神経が炎症を起こしている可能性があります。

まとめ

治療後に歯がしみるのは、特に「深い虫歯」の治療後によく起こる症状です。
原因は、神経に近い部分まで削ったことで、神経が一時的に過敏になってしまうことにあります。

多くの場合、時間の経過とともに落ち着いていきますが、確約はできません。症状が強くなる場合には再治療が必要になることもあります。

そして、このような状況を避けるために大切なのは 「虫歯の早期発見・早期治療」
定期健診を受け、小さなうちに治すことで、神経を守り、しみや痛みといった後遺症を防ぐことができます。

治療後のしみが気になる方は、まずは安静を心がけて様子を見つつ、不安があれば主治医に相談してください。