病院や歯医者で診察や治療を受けたあと、会計時に「意外と高いな」と感じたことはありませんか?
とくに治療がうまくいかなかったり、痛みがすぐに取れなかったりしたとき、「これでお金を取られるの?」と、モヤモヤした気持ちになることもあるかもしれません。
しかし、医療の現場において「結果=成功」に対して報酬が支払われているわけではありません。
実は、医療費の本質は「手間賃」であり、時間や技術、労力に対しての対価なのです。
今回は、この「医療費は手間賃」という考え方について、少し深く掘り下げてみましょう。
成功報酬とは違う医療の世界
まず、成功報酬という考え方は、たとえば探偵業務や一部の弁護士報酬などに見られます。
「成果が出たら支払う」「勝てば報酬、負ければゼロ」というやり方です。
しかし、医療ではこれが基本的に成立しません。なぜでしょうか?
それは、医療が**「生き物」=人間を相手にしているから**です。
同じ薬を使っても、同じ手術をしても、人によって反応が違う。
同じ虫歯の治療でも、ある人は1回で終わり、ある人は何度も治療が必要になる。
医療には、**「絶対の正解」や「完全なコントロール」**がないのです。
たとえ医師が100点の手技を行っても、体質や病状の進行具合によって結果が左右されることは珍しくありません。
例:歯科治療でよくあるケース
歯科治療では、この「結果が人によって違う」ことが顕著に現れます。
たとえば、根管治療(歯の神経の治療)は、非常に繊細で時間のかかる治療ですが、再発してしまうこともあります。
「時間もかけたし、保険も使ったのに、また痛くなった」という患者さんもいるでしょう。
でも、その裏では、
- 数ミリ単位で神経を探す根気強い作業
- 細菌を可能な限り除去するための消毒と洗浄
- 再感染を防ぐための密閉処置
といった、非常に手間のかかる工程が積み重なっています。
この作業に対する対価こそが「医療費」であり、「結果保証料」ではないという点が重要です。
なぜ「手間賃」としての医療費が必要か
「じゃあ、うまくいかなくても同じ料金なの?」
この疑問はとても自然です。ですが、こう考えてみてください。
たとえば、あなたがプロのカメラマンに撮影を依頼したとします。
時間をかけて、何百枚も撮ってもらい、ライティングやレタッチも丁寧にしてくれた。
でも、あなたのコンディションが悪くて、思ったような写真にならなかった。
そのとき、「この写真、あんまり気に入らないから、お金払わない」――と言えるでしょうか?
もちろん、プロもベストを尽くしますが、人間や環境が関わる以上、必ずしも完璧な結果になるとは限りません。
それでも、そこにかけた時間・技術・努力は正当に評価されるべきです。
医療も同じです。
医師は一人ひとりの症状、体質、過去の治療歴、生活習慣などを総合的に判断し、最適解を模索しています。
そのうえで、ベストな手段を選び、時間と労力を費やしているのです。
「手間賃」と知ることで見えてくる、医療への信頼
医療費を「成功報酬」として捉えると、治療結果が思わしくなかったときに不満が募りやすくなります。
「効かなかったから損をした」という気持ちになるのは、ごく自然な反応です。
ですが、医療費を「手間賃」として理解すると、見方が変わってきます。
- 治療中の説明が丁寧だった
- 痛みに細かく配慮してくれた
- 予防のアドバイスをしてくれた
こうした「目に見えにくい部分」こそが、実はとても価値のあるプロの仕事なのです。
医療は「結果保証」より「過程評価」
私たちは、医療に対して「必ず治るもの」「完璧に元通りになるもの」と考えがちです。
しかし現実には、慢性疾患や体質的な問題、高齢化による変化など、「完全な治癒」が難しいケースが多くあります。
それでも、医療が果たしている役割は大きく、
- 患者の不安を和らげる
- 症状の進行を防ぐ
- 生活の質(QOL)を保つ
といった点で、日々多くの成果を上げています。
結果だけではなく、その過程にこそ価値がある――。
だからこそ、医療費は「結果への対価」ではなく「手間と努力への対価」として捉えるべきなのです。
最後に:納得できる医療を受けるために
医療費に対してモヤモヤを感じたときは、ぜひこう考えてみてください。
- どんな準備をして治療に臨んでくれたか?
- どれだけ丁寧な診断や説明をしてくれたか?
- 治療の選択肢をわかりやすく教えてくれたか?
こうした「プロセス」を評価することが、医療者との信頼関係を築く第一歩です。
そして、疑問があるときは遠慮せず質問することも大切です。
私たち患者も、医療の受け手であると同時に、対話の担い手でもあります。
医療費を「手間賃」として理解し、信頼と納得のある医療を受けられる社会を一緒に築いていきましょう。