お子さんの虫歯治療で、歯科医から「神経を取る(=抜髄)必要があります」と言われたことはありませんか?

大人の歯(永久歯)であれば、神経を取る処置は一般的に行われます。しかし、乳歯(子どもの歯)においては、抜髄がうまくいかないことが意外と多いのです。

また、乳歯の抜髄が失敗した場合、それが後から生えてくる永久歯にも悪影響を及ぼすことがあります。

今回は、乳歯の抜髄がなぜ成功しづらいのか、その理由やメカニズム、そして将来の歯に与える影響について、やさしく解説していきます。


❓そもそも「乳歯の抜髄」ってどんな治療?

乳歯も永久歯と同じく、虫歯が進行すると神経(歯髄)にまで到達することがあります。その際に行うのが「抜髄(ばつずい)」です。

抜髄とは、虫歯菌に感染した神経を取り除き、代わりに薬を詰めて密封する治療です。歯を残すために不可欠な処置ではありますが、乳歯の場合は永久歯とは違う特有の難しさがあります。

下の図は永久歯の虫歯で根の治療になる場合を示しています。


👶 乳歯は“その場しのぎ”の歯? いいえ、実はとても重要!

「乳歯なんて、どうせ抜けるんだから、神経を取っても大丈夫でしょ?」

こう思われる方もいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。

乳歯は一見「一時的な歯」に見えますが、永久歯が正しく生えてくるための“道しるべ”の役割を果たしています。乳歯の位置や健康状態が悪いと、将来の歯並びや噛み合わせ、さらには顔の発育にも影響を与えかねません。


🦷 なぜ乳歯の抜髄はうまくいかないことが多いのか?

乳歯の抜髄が難しいのには、いくつかの理由があります。


1.乳歯の根っこ(歯根)が途中で吸収される

乳歯は、永久歯が生えてくる頃に自然と根が吸収されて短くなっていきます。これは「歯の生え変わり(生理的吸収)」のために必要な仕組みです。

このため、乳歯の根の形は不規則で、しかもだんだん短くなるため、神経を完全に取ること自体が難しいのです。

また、抜髄して薬を詰めたとしても、歯根の吸収によって薬が漏れたり、再感染が起きやすいという構造的な欠点もあります。


2.根管(神経の通り道)が細くて曲がっている

乳歯の神経の通り道(根管)は、永久歯に比べて非常に細く、複雑な形状をしています。

そのため、神経の一部が取り残されることも多く、これが後に細菌感染や膿の原因になることがあります。


3.感染の拡がりが早い

乳歯の歯髄は柔らかく、組織の抵抗力が弱いため、虫歯菌が侵入するとあっという間に歯根の先まで感染が及ぶことがあります。

抜髄したとしても、すでに根の先の骨に膿がたまっていたり、永久歯の芽(歯胚)に炎症が広がっていることも少なくありません。


4.治療中の協力が難しい

子どもは長時間口を開けているのが苦手です。根管治療は時間も回数もかかる治療ですが、十分な処置ができないまま“中途半端な治療”になることもあるのです。

その結果、後から腫れたり、痛みがぶり返すケースもあります。


⚠️ 乳歯の抜髄が失敗すると、どうなる?

乳歯の抜髄がうまくいかなかった場合、次のようなトラブルが起こることがあります:

■ 歯根の先に膿(根尖病巣)ができる

→ 歯茎に「できもの(フィステル)」が現れ、膿が出てくることもあります。

■ 歯が黒ずんで変色する

→ 治療後に血流が絶たれ、歯の内部で変色が起きることがあります。

■ 永久歯の生え方に影響が出る

→ 最も深刻なのがこれ。膿や炎症が乳歯の下にある永久歯の芽に影響を与えると、発育不全や歯の位置異常、エナメル質形成不全などが起こることがあります。


🧒 生え代わりの妨げになることも

抜髄後に乳歯の根の吸収がうまくいかないと、自然な生え変わりが遅れてしまうことがあります。

そうなると、永久歯が斜めに生えてきたり、変な場所から出てきたり、歯並びが大きく乱れる原因となります。

また、乳歯の炎症が強いと、永久歯の発育自体が障害されることもあり、最悪の場合生えてこない(先天欠如のように)見えることもあります。


🦷 対処法:すべての乳歯の神経を取る必要はない!

もちろん、すべての乳歯に抜髄が失敗するわけではありません。適切な症例選びと、経験のある歯科医のもとで行われれば、乳歯の抜髄がうまくいくこともあります。

また、最近では抜髄ではなく「生活歯髄切断」や「覆髄」といった神経を一部だけ温存する治療法もあります。

また、症状が進んでしまっている場合は、無理に乳歯を残さずに早期に抜歯してスペースを確保する(=スペースメインテナーの使用)ことも大切です。


✅ まとめ:乳歯の抜髄は難しいからこそ、早期発見・予防が大切

  • 乳歯の抜髄は、構造的・発育的に成功しづらい面がある
  • 炎症が永久歯に悪影響を与えるリスクがある
  • 根の吸収や形状が複雑なため、再感染が起きやすい
  • 最悪の場合、永久歯の発育や歯並びに支障が出る

だからこそ、お子さんの歯はできるだけ虫歯にならないように予防することが第一です。

定期検診でのフッ素塗布、シーラント処置、そしてなにより日常の歯磨きと食習慣がカギを握ります。

「乳歯だから」と軽く見ず、乳歯も“発育の土台”として大切にしていきましょう。