高齢になるにつれて骨粗鬆症のリスクは高くなります。特に女性は、閉経に伴う女性ホルモンの減少によって骨量が低下しやすく、男性よりも骨粗鬆症になりやすい傾向があります。
骨粗鬆症の薬を使用していても、虫歯治療、根管治療、歯周病治療、入れ歯の調整など、多くの歯科治療は通常どおり受けられます。
一方、抜歯やインプラント手術など、顎の骨に影響する処置では、薬の種類や使用目的によって注意が必要です。
大切なのは、骨粗鬆症の薬を怖がって自己判断で中止することではありません。

現在使っている薬、注射を受けた時期、薬を処方している医療機関などを歯科医師へ正確に伝え、医師と歯科医師が情報を共有しながら治療を進めることが重要です。
〇骨粗鬆症とは
骨粗鬆症は、骨の強度が低下し、骨折しやすくなる病気です。
骨の強さは、単に骨密度だけで決まるものではありません。骨の微細な構造や骨代謝の状態などを含む「骨質」も関係します。そのため、一般には次のように考えられています。
骨の強さ=骨密度+骨質
骨密度が低くなるだけでなく、骨の内部構造が劣化することで骨がもろくなり、背骨の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折などが起こりやすくなります。
骨粗鬆症は、骨折するまで自覚症状がないことも少なくありません。骨折を防ぎ、寝たきりや要介護状態になる危険を減らすためには、必要な薬物治療を適切に続けることが大切です。

●骨粗鬆症が起こる原因
骨粗鬆症には、加齢、遺伝的要因、体格、栄養状態、運動不足、喫煙、過度の飲酒など、さまざまな要因が関係します。
女性の場合は、閉経後に女性ホルモンが急激に減少することで骨吸収が進み、骨量が低下しやすくなります。
また、関節リウマチ、糖尿病、腎臓病などの病気や、ステロイド薬などの長期使用によって骨粗鬆症が起こることもあります。

〇骨粗鬆症の薬と歯科治療の関係
骨粗鬆症の治療薬のうち、一部の薬では「薬剤関連顎骨壊死」が起こることがあります。
英語ではMedication-Related Osteonecrosis of the Jawといい、頭文字を取って「MRONJ(エムロンジェ)」と呼ばれます。
ただし、骨粗鬆症の薬を使用している人全員に起こるわけではありません。骨粗鬆症に対して通常量で使用する場合、発症頻度は低いと考えられています。

●薬剤関連顎骨壊死とは
MRONJは、特定の薬の使用歴がある人に、顎の骨の露出や、骨に通じる瘻孔が長期間残る状態です。
初期には痛みがなく、骨が露出しているだけの場合もあります。しかし、細菌感染を伴うと、次のような症状が現れることがあります。
- 歯肉の腫れや痛み
- 膿が出る
- 顎の骨が露出する
- 抜歯した場所がなかなか治らない
- 歯がぐらつく
- 下唇などの感覚が鈍くなる
- 顎骨骨髄炎や病的骨折を起こす
ただし、抜歯後に骨が一時的に見えることが、直ちにMRONJを意味するわけではありません。通常は臨床経過、薬の使用歴、画像所見などを含めて総合的に診断します。

〇抜歯をすると顎骨壊死になるのか
以前は「薬を使用している人が抜歯をするとMRONJになる」という説明がよくされていました。
しかし現在では、抜歯だけが原因とは考えられていません。
重度の歯周病、根尖病変、智歯周囲炎などによって、抜歯前から顎の骨に感染や炎症が存在していることがあります。この感染がMRONJの発症や悪化に関係している可能性が指摘されています。
つまり、悪い歯を抜かずに残しておくことが、必ずしも安全とは限りません。
感染した歯を放置すると、かえって顎骨壊死のリスクを高める可能性があります。必要な抜歯を休薬のために長期間延期することも、適切ではない場合があります。
抜歯する危険性と、感染源を残す危険性の両方を考えて判断することが重要です。顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023

〇通常の歯科治療は受けられる?
骨粗鬆症の薬を使用していても、次のような治療は一般に行うことができます。
- 虫歯治療
- 被せ物や詰め物の治療
- 根管治療
- 歯周病治療
- 歯石除去
- 入れ歯の製作や調整
- 定期的なクリーニング
特に、虫歯や歯周病を早い段階で治療し、抜歯が必要になる状態を防ぐことは、MRONJの予防にもつながります。
注意が必要なのは、抜歯、歯周外科、インプラント手術、骨造成など、顎の骨に直接影響する処置です。
ただし、薬を使用しているという理由だけで、これらの処置がすべて禁止されるわけではありません。

〇抜歯前に薬を休む必要はある?
2023年の国内ポジションペーパーでは、骨吸収抑制薬を使用している患者さんの抜歯について、原則として予防目的の休薬を前提にしないことが提案されています。
短期間薬を休むことによってMRONJが減少するという、十分な根拠が確認されていないためです。
一方で、薬を中止することにより骨折の危険性が高まる場合があります。そのため、患者さんが自己判断で薬を中止してはいけません。
ただし、すべての患者さんに同じ方針が当てはまるわけではありません。次のような要素を総合して判断します。
- 薬の種類
- 使用目的
- 投与量
- 投与期間
- 内服薬か注射薬か
- がん治療への使用か、骨粗鬆症への使用か
- 糖尿病や腎疾患などの全身状態
- ステロイド薬などの併用薬
- 口腔内の感染状態
- 抜歯や手術の範囲
休薬や投与時期の変更が必要かどうかは、薬を処方している医師と歯科医師が相談して決定します。
●プラリアを使用している人は特に自己中断しない
デノスマブ製剤であるプラリアは、骨粗鬆症治療に広く使用されている注射薬です。
デノスマブは中止したり、次回の注射を大幅に延期したりすると、骨密度が急速に低下し、複数の椎体骨折が起こる危険性が高まることがあります。
予定された歯科手術では、最終投与からの時期を考慮して処置を計画することがありますが、これは単純な「休薬」とは異なります。
プラリアを使用している場合は、次回投与を自分で延期せず、必ず処方医と歯科医師に相談してください。

〇顎骨壊死と関連する主な薬
代表的な薬には次のものがあります。
●ビスホスホネート製剤
- アレンドロン酸
商品名:フォサマック、ボナロンなど - リセドロン酸
商品名:アクトネル、ベネットなど - ミノドロン酸
商品名:ボノテオ、リカルボンなど - イバンドロン酸
商品名:ボンビバなど - ゾレドロン酸
商品名:リクラスト、ゾメタなど
同じ成分でも、骨粗鬆症に使う場合と、がんの骨転移などに使う場合とでは、投与量やMRONJのリスクが大きく異なることがあります。
●抗RANKL抗体薬
- デノスマブ
商品名:プラリア、ランマーク
プラリアは主に骨粗鬆症などに使用され、ランマークは主にがんの骨転移などに使用されます。同じデノスマブでも使用目的と投与量が異なります。
●抗スクレロスチン抗体薬
- ロモソズマブ
商品名:イベニティ
ロモソズマブでも顎骨壊死が報告されていますが、発症例は少なく、薬との因果関係について不明な点も残っています。
このほか、がん治療に使用される一部の血管新生阻害薬や分子標的薬などでも、顎骨壊死が報告されています。
〇内服薬と注射薬、どちらが危険?
「飲み薬なら安全で、注射薬なら危険」と単純に分けることはできません。
MRONJのリスクを大きく左右するのは、投与経路だけではなく、薬の種類、投与量、使用目的、使用期間、全身状態、口腔内の感染などです。
たとえば、骨粗鬆症に対する注射薬は低用量で使用されることがあります。一方、がんの骨転移などに対する治療では、同系統の薬が高用量・短い間隔で使用されるため、MRONJのリスクが高くなります。
したがって、注射薬を使っているという理由だけで、すべての患者さんが入院や全身管理下で抜歯を受けるわけではありません。
高用量薬の使用、複数のリスク因子、広範囲な手術、すでにMRONJが疑われる場合などでは、病院の口腔外科へ紹介することがあります。

〇インプラント治療は受けられる?
骨粗鬆症に対して低用量の骨吸収抑制薬を使用している場合、インプラント治療が一律に禁止されるわけではありません。
しかし、薬の使用期間、糖尿病、自己免疫疾患、透析、ステロイド薬の使用、喫煙、歯周病などのリスクを評価したうえで、慎重に判断する必要があります。
一方、がんの骨転移などに対して高用量の骨吸収抑制薬を使用している患者さんでは、代替治療が存在することから、原則としてインプラント手術は行うべきではないとされています。

〇顎骨壊死を予防するためにできること
●薬の開始前に歯科を受診する
骨粗鬆症やがん治療で骨吸収抑制薬を始める予定がある場合は、できるだけ投与開始前に歯科を受診しましょう。
重度の歯周病、治療困難な虫歯、根尖病変などを確認し、必要であれば投薬開始前に抜歯などを済ませます。
ただし、歯科治療のために骨粗鬆症やがんの治療を不必要に長く延期することは避けなければなりません。医師と歯科医師が、治療の優先順位と開始時期を調整します。

●定期的に歯科を受診する
薬の使用中も、定期的な歯科受診が重要です。
歯周病や虫歯を早期に発見できれば、抜歯や大きな外科処置を回避できる可能性があります。
がん骨転移に対して高用量のゾレドロン酸を使用した患者を対象とした研究では、3か月ごとの歯科介入がなかった群は、介入があった群より顎骨壊死の発症リスクが2.59倍高かったと報告されています。
この数値をすべての骨粗鬆症患者さんにそのまま当てはめることはできませんが、定期的な口腔管理が重要であることを示す結果です。
●入れ歯の傷も放置しない
合わない入れ歯によって歯肉に傷や潰瘍ができると、細菌感染や骨露出のきっかけになることがあります。
入れ歯が当たって痛い場合は我慢せず、早めに調整を受けてください。

●注射薬もお薬手帳に記録する
飲み薬はお薬手帳で確認できますが、半年に1回や年1回の注射は記載されていないことがあります。
薬の商品名が分からない場合は、次の情報だけでも歯科医院に伝えてください。
- 骨粗鬆症の治療を受けていること
- 飲み薬か注射薬か
- 注射を受けた医療機関
- 最後に注射を受けた時期
- 次回の注射予定日
- がん治療を受けているか
- ステロイド薬などを使用しているか
可能であれば、お薬手帳、薬剤情報提供書、注射の予定表を持参しましょう。

〇まとめ
骨粗鬆症の薬の一部では、まれに薬剤関連顎骨壊死が起こることがあります。しかし、MRONJを恐れて骨粗鬆症の治療を自己判断で中止してはいけません。
骨粗鬆症による骨折は、生活の質や生命予後に大きな影響を及ぼします。薬を中止することにも明確な危険があります。
また、「抜歯をすると顎骨壊死になる」と考えて、感染した歯を放置することも適切ではありません。歯周病や根尖病変などの感染自体が、MRONJの発症に関係することが分かってきています。
大切なのは、次の4点です。
- 薬を自己判断で中止しない
- 薬の名前と使用目的を歯科医師に伝える
- 注射を受けた時期も記録しておく
- 虫歯や歯周病を放置せず、定期的に歯科を受診する
薬の名前が分からない場合は、お薬手帳や薬剤情報を歯科医院に持参してください。医師、歯科医師、薬剤師が情報を共有し、骨折予防と安全な歯科治療の両方を考えることが重要です。
























