10年以上前でしょうか、「食後すぐに歯を磨くと、歯が削れる」と言う話が世間にでました。

その話は本当なのでしょうか?

●誰それのいつ頃の説か?

最初は2006年頃にアメリカで論文が出されたようです。

試験管に入れたPH2.5程度の清涼飲料水の中に象牙質(歯の本体部分)を入れておいたところ、

数時間で溶けてしまった、と。

これをもってして、食後すぐ(PHが下がっている)に歯磨きをすると歯が削れてしまうのでやめたほうが良い、

とのことでした。

日本では2012年と2015年にニュースなどで報じられたようですね。

自分としては、理論が飛躍しすぎていると思っています。

●そもそも歯磨きとはどの行為を指すのか?

どうもニュースなどで「歯磨き」と言っているのは「ブラッシング」のことを指しているようです。

しかし、口腔内のお手入れは複数の方法があり、「ブラッシング」はその一つにすぎません。

それらを一つ一つ解説して行きます。

◎ブラッシング

文字通り「歯ブラシ」でゴシゴシ歯をこすることを指します。

では、それは何のためにやっていることなのでしょうか?

食後の食べかすを取るため?

いいえ違います。

歯にへばりついてしまった「プラークを除去するため」にゴシゴシこするのです。

プラークは元々は細菌ですが、細菌が増えると集団を作り、

不溶性グルカンと言う「マンションのような集合住宅」を形成します。

これがプラークです。

プラークはネバネバで不溶性ですから、うがいでは落ちません。

なのでブラッシングで落とす必要があります。

ブラッシングでは食べかすは落とせないと言うことを覚えておいてください。

◎歯間ブラシ、フロス

いずれも「歯と歯の間」をお掃除する道具です。

歯面をこすることになりますので、プラークを落とす効果もあり、

また、挟まったネギのような「食べかす」(食渣(しょくさ)と言います)を除去する効果もあります。

ただし歯の表面(表とか裏側)にへばりついたプラークを落とすのには形状的に向いていません。

◎番外編:ウォーターピック

水流で汚れを洗い流す装置です。

ただ、プラークは不溶性ですから水では洗い流せませんし、

食渣もしっかりハマったものは取り切れません。

歯科医師としてはマストアイテムとは思っておりません。

●食後の口腔内で起こること

仮に、食事前は完璧に綺麗だった場合、食後に起きることをご説明します。

まず、食後すぐは口腔内は酸性に傾いています。

そして、必ず食べかす(食渣)が残っています。

◎酸性:

唾液には「緩衝能」という機能があり、何もしなくても30~40分かけて酸性からほぼ中性に

自動的に戻ります。

さらに一時的に酸性のせいで溶けだしたカルシウムも唾液から戻ってきます。

◎食渣:

食べかすは最近のえさになりますので、細菌は増え始めます、それこそたった数分でも少しは増えます。

プラークという塊を形成するのには数時間かかるといわれていますが、細菌自体はすぐ増え始めます。

●メリットとデメリット

何事にもメリットとデメリットが付きまといます。その中でどうするのかを考える必要があると思うのです。

食後すぐに口腔内を清潔にする(ブラッシングとは言っていませんよ)ことは、ほとんどデメリットがなく、

細菌の増殖を抑えるという意味で、虫歯や歯周病予防ができるというメリットがあります。

食後すぐにブラッシングをすることは歯が削れるかもしれない、というデメリットがありそうですが、

多分それほど削れることはないと思われます。

先ほどかいた、唾液の緩衝能とカルシウムが唾液からもどってくる話、です。 

もちろん、無茶苦茶な強圧はよろしくありませんが。

●では、私たちはどうふるまったら良いのか?

「口腔内の細菌が少ない状況を長く保つ」という観点で考えてください。

質問1:仮に食事前がすごく清潔だったとして、食後すぐにやったほうが良いのは、ブラッシング?それとも歯間ブラシ(またはフロス)?

質問2:食後数時間したら歯がねばねばしてきました。そのときにすべきはブラッシング?それとも歯間ブラシ(またはフロス)?

考え方がわかってきましたでしょうか?

●私のやり方

毎食後、数分以内にフロスまたは歯間ブラシで食渣を取ります。その後割としっかり目のうがいを行います。

リステリンを活用することも多々あります。

こうすることで、細菌のえさとなる食渣をいち早く口の外に追い出します。

そして、ブラッシング自体は一日に一回です。

毎食後やってもよいのですが、食前にきれいでしたら毎回ブラッシングをする必要性を感じなくなってしまい、

一日に一回になりました。

実際食後すぐに食渣を除去できると数時間たっても口の中がねばねばしません。

ただし、、、、

この「食後すぐ」、というのは相当厳しくしないといけないと思ってまして、

それこそ食後5分以内、できれば「ごちそうさま」を言った次の瞬間、くらいに思っています。

ですから何らかの事情で食後5分以上たってしまった場合はフロスに加えブラッシングもします。

また、間食などの場合も同様です。

ただし、ジュースなどの飲み物だけの場合はフロスは必要なくうがいだけで済ませます。

このときも飲み終わった次の瞬間うがい、です。

5分経ってしまったらブラッシングもします。

細菌がプラークになるのに数時間かかるといっても、細菌自体は秒で増えますので。

さてここまでやっても、絶対にプラークができないというわけではないので、ブラッシング自体は一日に一回以上必

要と感じていますし、

やるときは最低10分程度はやるようにしています。

朝というよりは夜のほうが意味がありますのでそうしています。

夜は細菌が増えやすいことが分かっておりますので、その前にきれいにしておくわけです。

●エビデンス

これまでの私のお話は、「エビデンスがあるもの」と「エビデンスがないが経験から感じた話」が混在しています。

ですから、学会に発表する意図はありませんし、「わたくしのやり方」という書き方をしております。

そして、ここまで読んでくださった方ならわかると思いますが、

「食後すぐ歯磨きをしないほうがよいのか?」

という主題からだいぶ離れてしまいましたが、正直それはどうでもよいのです。

削れることに恐怖を感じているなら、食後すぐ食渣をとってうがいをすればよいですし、その後15分とか20分経

ってからブラシを当てればよいのです。(食前がきれいならブラシを当てる必要はそもそもないですが)

そして、削れることを恐れていないあなたは、ブラシじゃ食渣は取れないのだからフロスや歯間ブラシを使って食渣を取って、そののちブラッシングをすればよいのです。(食前がきれいならブラシを当てる必要がそもそもない出が)

どうでしょうか?ほとんど一緒でしょう。