歯科医院でよくあるご質問の一つに、「電動歯ブラシって、どれが一番良いんですか?」というものがあります。確かに、家電量販店やドラッグストアに行くと、さまざまなタイプの電動歯ブラシが並び、どれを選べばいいのか迷ってしまうのも無理はありません。
しかし私たち歯科医師から見ると、「どんな電動歯ブラシを使うか」よりもずっと大事なのは、「どうやって使っているか」です。実際、どんなに高性能な歯ブラシを使っていても、磨き方に問題があれば歯垢はきれいに落ちません。今回は、電動歯ブラシのメリット・注意点、そして患者さんにぜひ知っていただきたい「電動ブラシの落とし穴」についてご紹介します。

電動歯ブラシの主なタイプと特徴
電動歯ブラシにはいくつか種類があります。代表的なのは以下の3タイプです。
1. 回転式ブラシ(ロータリータイプ)
ヘッドが小さく、くるくる回転しながら汚れを落とすタイプ。プラーク(歯垢)除去力が高く、力を入れずに使えるのが特徴です。
2. 音波式ブラシ(ソニックタイプ)
高速振動で歯垢をかき出すタイプ。回転ではなく、毛先の細かい振動と水流を利用して歯と歯茎の間の汚れを浮かせて落とします。
3. 超音波式ブラシ
人間の耳には聞こえない超音波で歯垢を壊す仕組み。歯周ポケットのケアにも適しているとされていますが、やや高価です。
いずれも一定の性能を備えていますが、歯の形や歯並び、磨く技術によって「合う・合わない」があります。
電動歯ブラシのメリット
電動ブラシには確かに多くの利点があります。
- 手で動かさなくても汚れが落ちやすい
- 一定のリズムで磨けるためムラが少ない
- 磨く時間を測ってくれるタイマー機能付きのものもある
- 握力が弱い高齢者や障がいのある方にも有用
こうしたメリットはありますが、あくまで「正しい使い方をしている」ことが前提です。
もっとも多い誤解(ここ大事!):「電動を使えば勝手にきれいになる」
多くの患者さんが電動歯ブラシに対して過度な期待を持っていると感じます。
「電動を使っているから大丈夫」
「勝手に動くから、ちゃんと当てさえすれば落ちる」
「高いやつだから、きっと磨けてるはず」
──こうした思い込みが、実は一番の落とし穴です。
定期検診に来られる方でも、「毎日電動歯ブラシを使ってるんですけどね」とおっしゃりながら、歯と歯の間や歯の付け根にしっかり歯垢が残っているケースは少なくありません。つまり、「磨いている」つもりでも「磨けていない」のです。
電動ブラシに頼るあまり、磨き方の意識が薄れる
電動ブラシは「動かす手間を減らす」道具であって、「歯垢除去を自動化する」機械ではありません。にもかかわらず、機械任せにしてしまうことで、
- ブラシを当てる角度が雑になる
- 細かい箇所(奥歯の裏側や歯間部)を意識しなくなる
- 「何分磨くか」より「なんとなく使った」で終わってしまう
こういった状況になっている方も多く見受けられます。
言い換えれば、「電動ブラシ=安心」という先入観が、歯磨きに対する注意力を逆に下げてしまっているケースがあるのです。

道具に頼りすぎるくらいなら「手用ブラシで丁寧に」が正解
電動ブラシが悪いわけではありません。正しく使えばとても有効です。問題は、「正しい使い方ができていないのに、それに気づいていない」ことにあります。
私たち歯科医師としては、次のようにお伝えしたいのです。
電動ブラシを過信して雑になってしまうくらいなら、手用ブラシで1本1本丁寧に磨いてくれる方が、よほど清掃効果は高い。
実際、歯垢の染め出しをしてみると、手磨き派の方のほうが「意識して細かく磨いている」分、きれいなことも多いのです。

電動ブラシを使うなら知っておきたい「正しい使い方」
電動歯ブラシを選ぶ際には、まず自分の口腔内の状態や歯科医のアドバイスを踏まえて選ぶこと。そして、以下の点を意識して使いましょう。
✔ ブラシの当て方を確認する
歯の表面だけでなく、歯と歯の間、歯と歯茎の境目にもきちんと毛先を当てることが大切です。
✔ 力を入れすぎない
電動ブラシは軽く当てるだけで十分。押し付けすぎると歯茎を傷つけたり、ブラシの性能を損ねたりします。
✔ 時間をかけて、順番に磨く
「なんとなく」ではなく、左右上下、外側内側と順序立てて磨きましょう。1回2分程度を目安に。
✔ 替えブラシの交換を忘れずに
毛先が開いた状態では、清掃効果が大きく落ちます。1〜3ヶ月に1回の交換が理想です。
まとめ:「電動歯ブラシは魔法の道具ではない」
電動歯ブラシは確かに便利で、正しく使えば強力な味方になります。しかし、最も大切なのは「自分の口の中をしっかりきれいにしよう」という意識と技術です。
もし「電動を使っているから安心」と思ってしまっているのであれば、一度立ち止まって、「本当にきれいに磨けているか?」を見直してみてください。心配であれば、歯科医院でブラッシング指導や染め出しチェックを受けてみるのもおすすめです。
どんな道具を使うかより、どう使うか。
これが、歯を守る上で最も重要なポイントなのです。