「電動歯ブラシを使った方がいいですか?」

これは歯科医院で患者さんからよく聞かれる質問の一つです。

結論から言えば、

手磨きでも電動歯ブラシでも、きちんとプラーク(歯垢)が落とせていれば、どちらでも構いません。

実際、電動歯ブラシには効率よくプラークを除去できるというメリットがあります。

しかし、診療をしていると少し気になることがあります。

それは、

「電動歯ブラシを使っているから、自分はきれいに磨けているはず」

と思っている方が意外に多いことです。

一見すると歯の表面はピカピカ。

ところが歯科医院で詳しく確認すると、

歯と歯の間や歯肉との境目にはプラークが残っている。

こうしたケースは珍しくありません。

電動ブラシを使っていても、歯間部や歯肉溝にプラークが残りやすいことを説明するイラスト。

問題なのは、歯ブラシが電動か手動かということよりも、

「どこを磨かなければならないか」を意識しているかどうか

なのです。

〇8020達成者はついに約6割に

日本人の歯は以前よりずっと多く残るようになりました。

厚生労働省が行っている「歯科疾患実態調査」の2024年調査では、80歳で20本以上の歯を残している「8020達成者」は61.5%と推計されています。

2022年調査では51.6%でしたから、高齢になっても多くの自分の歯を残している人が増えていることが分かります。

8020運動を通じて歯が残っている率が据えていることを説明するイラスト。

これは非常に良いことです。

しかし、

「歯が残っている=その歯が健康である」

とは限りません。

2024年の調査では、80~84歳で4mm以上の歯周ポケットを持つ人は61.6%でした。

つまり、これからは単に歯を残すだけではなく、

「残った歯を虫歯や歯周病からどう守るか」

がますます重要になります。

そこで大切になるのが毎日のセルフケアです。

歯がたくさん起こっている反面、虫歯や歯周病のリスクも増え、セルフケアが重要になっていることを説明するイラスト。

〇電動歯ブラシは手磨きより優れている?

では、電動歯ブラシを使えばよいのでしょうか。

研究では、電動歯ブラシは種類によっては手磨きより効率的にプラークを除去し、歯肉炎を改善できることが報告されています。

ですから、

「電動歯ブラシには意味がない」

というわけではありません。

むしろ上手に使えば、とても便利な道具です。

細かい振動や回転を自分の手で再現する必要がないため、一定の清掃効果を得やすいというメリットがあります。

ただし、ここで非常に重要なことがあります。

電動歯ブラシは、自分で汚れている場所を探してくれる機械ではありません。

毛先をどこに当てるかは、結局自分で決めなければならないのです。

〇「表面はピカピカ。でも歯肉の近くにはプラーク」

電動歯ブラシを使っている患者さんのお口を診ていると、ときどき特徴的な磨き残しを見かけます。

歯の表面の中央部分は非常にきれいなのです。

舌で触ってもツルツルしています。

ところが、

・歯と歯肉の境目
・歯肉溝付近
・歯と歯の間
・歯並びによって少し引っ込んでいる部分
・奥歯の後ろ側

などを確認すると、プラークが残っています。

なぜでしょうか。

歯の表面は平らではないからです。

歯列を横から見ても、すべての場所が同じ位置に並んでいるわけではありません。

出っ張ったところもあれば、引っ込んだところもあります。

歯間部と歯肉溝のプラークが取り残ししやすい理由を説明するイラスト。

何も考えずに電動歯ブラシを歯列に沿って動かしているだけなら、毛先が最初に触れるのは出っ張っているところです。

そこには何度もブラシが当たります。

その一方で、歯と歯の間や歯肉との境目などの少し奥まった場所には、毛先が十分届いていないことがあります。

つまり、

「歯ブラシは当てている。でも、磨きたい場所には当たっていない」

のです。

これは非常に重要な違いです。

〇電動歯ブラシで一番怖いのは「慢心」かもしれない

電動歯ブラシそのものが悪いわけではありません。

問題になるのは、

「高性能な電動歯ブラシだから大丈夫」

と思ってしまうことです。

数万円する電動歯ブラシを使っていても、毛先がプラークに触れていなければ、そのプラークは取れません。

逆に、ごく普通の手用歯ブラシでも、磨く場所を理解して毛先をきちんと当てることができれば、非常にきれいに磨くことができます。

高い電動ブラシを使っていても、当たっていなければ意味がないことを説明するイラスト。

これは掃除機に少し似ています。

どれほど吸引力の強い掃除機を買っても、部屋の中央だけを掃除して、

家具の隙間や部屋の隅にノズルを入れなければ、そこにはホコリが残ります。

歯磨きも同じです。

高性能であることと、磨き残しがないことは別問題なのです。

〇「磨く」より「毛先を目的地へ運ぶ」

電動歯ブラシを上手に使うコツは、

ゴシゴシ磨こうとしすぎないことです。

ブラシ自体が高速で動いてくれるので、手磨きのように大きく動かす必要はありません。

それよりも、

「今、毛先がどこに当たっているのか?」

を意識してください。

歯の表面を漫然となぞるのではなく、

「ここは歯と歯肉の境目」

「ここは歯と歯の間」

「ここは少し引っ込んでいる」

「ここは一番奥の歯の後ろ側」

というように、場所を確認しながらブラシを移動させます。

電動ブラシの正しい当て方を解説するイラスト。

電動歯ブラシでは、

自分の仕事はブラシを動かすことではなく、毛先を目的地へ連れていくこと

と考えると分かりやすいでしょう。

〇歯間部は歯ブラシだけでは限界がある

もう一つ大切なのが歯と歯の間です。

これは電動歯ブラシでも手磨きでも共通します。

歯ブラシだけですべての歯間部を完全に清掃しようとするのには限界があります。

そのため、歯間の状態に応じて、

歯間ブラシやデンタルフロスを併用することが重要です。

特に歯周病によって歯肉が下がり、歯間部にある程度のスペースができている場合には、適切なサイズの歯間ブラシが有効です。

反対に隙間が狭く、歯間ブラシが入らない場所ではフロスが適していることがあります。

「電動歯ブラシを使っているから歯間ブラシはいらない」

ということにはなりません。

電動ブラシだけですべてをきれいにすることは不可能で、歯間ブラシやフロスが必須であることを解説するイラスト。

歯ブラシと歯間清掃用具は役割が違う

と考えてください。

〇高い電動歯ブラシを買えばもっときれいになる?

電動歯ブラシには数千円程度のものから数万円するものまであります。

ブラシの動き方にも、

・音波式
・高速振動式
・回転式、回転振動式

などさまざまな方式があります。

近年の研究では、電動歯ブラシの種類によってプラーク除去能力に多少の違いがあることも報告されています。

しかし、その差だけを見て製品を選ぶ必要はないでしょう。

なぜなら実際のセルフケアでは、

性能の差以上に「自分が正しく使えているか」が重要だからです。

重すぎないか。

ヘッドが自分の口に対して大きすぎないか。

奥歯まで届くか。

替えブラシを継続して購入できる価格か。

毎日無理なく使えるか。

こうしたことも大切な選択基準です。

高性能な機種を買って満足してしまうより、

自分の口に合った歯ブラシを正しく毎日使う方が大切です。

高い電動ブラシを使えばよいかというとそうではないことを解説するイラスト。

〇電動歯ブラシで歯石は取れる?

これもよく聞かれる質問です。

基本的に、

すでに付着して硬くなった歯石を家庭用の電動歯ブラシで除去することはできません。

電動歯ブラシが得意なのは歯石を削り取ることではなく、その前段階であるプラークを除去することです。

歯石を取ろうとして強く押し付ける必要はありません。

むしろ必要以上の力を加えると、歯肉や歯の表面を傷つける原因になることがあります。

歯石になってしまったものは歯科医院で除去し、

家庭では「歯石になる前のプラークを毎日落とす」

と役割を分けて考えましょう。

〇本当に磨けているか、一度「見える化」してみよう

自分ではきれいに磨いているつもりでも、磨き残しはなかなか分かりません。

そこで役立つのがプラークの染め出しです。

染め出してみると、

「歯の真ん中はきれいなのに歯肉の近くだけ赤い」

「歯と歯の間だけ残っている」

ということがよく分かります。

これは、

「歯磨きをしているか」ではなく「プラークを落とせているか」

を確認する方法です。

電動歯ブラシを長年使っている方ほど、一度歯科医院で磨き残しを確認してもらうとよいでしょう。

電動ブラシでは歯石は取れないことを示すイラスト

〇まとめ

「電動歯ブラシと手磨き、どちらがいいですか?」

この質問に対して、単純にどちらか一方が正解とは言えません。

電動歯ブラシは上手に使えば、非常に優れた清掃器具です。

しかし、

電動歯ブラシが自動的に口の中をきれいにしてくれるわけではありません。

歯の表面の出っ張った部分だけがピカピカでも、歯肉との境目や歯間部にプラークが残っていれば、虫歯や歯周病のリスクは残ります。

大切なのは、

「何を使って磨くか」より「どこを磨くか」。

そしてもう一つ、

「電動歯ブラシを使っているから大丈夫」と思い込まないことです。

手磨きでも電動歯ブラシでも、毛先が届いていない場所のプラークは落ちません。

歯科医院で、

「自分はどこが磨けていないのか」

「そこへどう毛先を当てればよいのか」

を確認してみてください。

まとめとして、電動ブラシを使う際の注意点を解説するイラスト。

電動歯ブラシは、正しく使えば強力な味方です。

しかし最後に歯を守るのは、歯ブラシの値段や性能ではなく、

「磨き残しを意識して、そこに毛先を届ける習慣」

なのです。