「最近、歯がしみるようになった」「前歯が削れてきた気がする」「笑うのが怖くなった」
そんな悩みを抱えていませんか?

実はその原因、過食嘔吐によるものかもしれません。

摂食障害のひとつである「過食嘔吐」は、心と体の両面に大きなダメージを与える行為です。その中でも、**“歯”**は見た目にも影響が出やすく、多くの方が自覚しやすい問題です。

今回は、過食嘔吐によってなぜ歯がボロボロになってしまうのか、そしてどう向き合っていけば良いのかをお話しします。


■ なぜ過食嘔吐で歯がボロボロになるの?

嘔吐することで胃の中の食べ物と一緒に胃酸が口の中に逆流します。胃酸は非常に強力な酸性(pH1~2程度)で、歯の表面を覆うエナメル質を溶かしてしまいます。

この状態が繰り返されることで、以下のようなダメージが起こります:

  • 歯の表面が削れてツルツルになる(酸蝕症)
  • 冷たいものや甘いものがしみる(知覚過敏)
  • 歯が薄くなり、透明感が増して見た目が悪くなる
  • 歯の先端がギザギザになる、折れやすくなる
  • 虫歯や歯周病のリスクが急増する

また、頻繁な嘔吐で口内環境が悪化し、口臭や口内炎、のどの炎症なども引き起こします。見た目の悩みだけでなく、食べること自体がつらくなり、負の連鎖が始まってしまうのです。


■ 歯科医が気づく「過食嘔吐のサイン」

意外と知られていないのが、「歯科医は過食嘔吐に気づくことが多い」ということ。前歯の裏側や奥歯の内側が不自然に削れていたり、酸蝕の特徴的なパターンがあるからです。

もちろん、歯科医が必ず本人に指摘するとは限りませんが、歯の状態を見れば「これは普通の磨耗ではない」とわかることが多いのです。

そのため、歯科医院で「何か気になることはありますか?」と聞かれた際に、勇気を出して少しでも相談できれば、何らかのサポートやアドバイスが得られるかもしれません。


■ 歯を守るためにできること

過食嘔吐の根本的な解決は心のケアですが、歯へのダメージを少しでも減らすためにできる対策もあります。

① 嘔吐後、すぐに歯磨きしない

嘔吐後は歯のエナメル質が酸で一時的に軟化しています。この状態でゴシゴシ磨くと、逆に歯を傷つけてしまいます。
まずは水でうがいをし、30分ほど経ってからやさしく歯を磨きましょう。

② フッ素入りの歯磨き粉を使う

フッ素にはエナメル質の再石灰化を促す働きがあります。酸蝕症の進行を緩やかにする効果も。

③ キシリトールガムで唾液を促進

唾液は口内の酸を中和し、再石灰化を助ける役割があります。ガムで唾液分泌を促すことも一つのケア方法です。

④ 定期的な歯科受診

過食嘔吐に対して偏見のない歯科医も多くいます。自分を責めすぎず、健康を守るための一歩として受診を検討してみてください。


■ ひとりで抱え込まないで

摂食障害は「意志の弱さ」や「甘え」ではありません。生きづらさや、感情のコントロールの難しさが背景にあります。

過食嘔吐をやめたくてもやめられない。それは、あなたが悪いからではありません。
でも、**「歯がボロボロになってきた」**というサインをきっかけに、自分をもっと大切にしてあげてほしいのです。

必要なのは、「完璧になること」ではなく、少しずつでも自分に優しくなれる環境をつくること
専門の心療内科、カウンセラー、摂食障害に理解のある歯科医など、味方になってくれる人たちは必ずいます。


■ さいごに

過食嘔吐は、体の外からも心の中からも、少しずつあなたをすり減らしてしまいます。
でも、歯の痛みや見た目の変化が、その「気づき」の第一歩になることもあります。

「もうこれ以上、歯を壊したくない」
そう思ったあなたは、もう十分頑張っています。

どうか自分を責めないでください。
ゆっくりでいい、一歩ずつ、自分をいたわる時間を増やしていきましょう。