「歯がズキズキ痛む。でも歯医者に行っても虫歯は見つからない」
そんな経験をしたことはありませんか?

通常、歯の痛みと聞くと「虫歯」や「歯周病」などの口腔内の病気を想像します。しかし、中にはこれらの原因が一切見つからないのに、強い歯の痛みが続くケースがあります。このような歯の痛みは、**非定型歯痛(ひていけいしつう)**と呼ばれる疾患かもしれません。

非定型歯痛とは?

非定型歯痛(英語:Atypical Odontalgia)は、虫歯や歯周病、歯の根の炎症などの明確な原因がないにもかかわらず、歯や歯の周辺に痛みを感じる状態を指します。X線写真やCTを撮っても異常が見つからず、見た目には健康な歯であるにも関わらず、痛みが続くのが特徴です。

痛みは持続的で、しばしば「ズキズキ」「ジンジン」「締めつけられるような」などと表現され、患者さんによってその感じ方はさまざまです。

なぜ非定型歯痛が起きるのか?

非定型歯痛の原因は、神経性の痛み(神経障害性疼痛)や脳の痛みの感じ方の異常が関係していると考えられています。以下のような要因が関係していることがあります。

  • 抜歯や根管治療などの歯科治療後に痛みが続く
  • 精神的ストレスやうつ、不安障害の影響
  • 三叉神経(顔の感覚をつかさどる神経)の機能異常

つまり、痛みの原因が「歯そのもの」ではなく、「痛みを感じる神経系の異常」によるものなのです。

非定型歯痛の症状

非定型歯痛の症状には、以下のような特徴があります:

  • 虫歯や炎症がないのに持続的な歯の痛みがある
  • 痛みが移動することがある(今日は右上、明日は左下など)
  • 歯を抜いたのに痛みが治まらない
  • 複数の歯が同時に痛むこともある
  • 歯科治療では痛みが改善しない
  • 痛み止めが効きにくい

中には、「何軒も歯医者を回ったが原因が見つからず、ついには健康な歯を抜いてしまった」という深刻なケースもあります。

どうやって診断するの?

非定型歯痛は、除外診断によって判断されることが多いです。つまり、虫歯や歯周病、顎関節症、三叉神経痛などの他の病気の可能性をすべて除外した上で、最終的に「非定型歯痛」と診断されます。

歯科医院だけでなく、口腔外科心療内科・ペインクリニックなどの専門医の診察が必要になることもあります。

治療法はあるの?

非定型歯痛の治療は一般的な歯科治療とは異なり、以下のような方法が用いられます:

1. 薬物療法

  • 抗うつ薬(アミトリプチリンなど):神経の過敏性を抑える効果があります。
  • 抗てんかん薬(カルバマゼピンやプレガバリンなど):神経性の痛みを和らげるために用いられます。
  • 鎮痛剤:一時的に痛みを抑えるために使用されますが、非定型歯痛にはあまり効果がないこともあります。

2. 心理療法

  • **認知行動療法(CBT)**などが用いられることがあります。痛みに対する考え方や感じ方を見直すことで、痛みの軽減を目指します。

3. 神経ブロック注射

三叉神経の痛みをブロックするための注射を行う場合があります。痛みの緩和に一定の効果が見られることもあります。

4. 多職種連携

歯科医師、心療内科医、ペインクリニック医、カウンセラーなどが連携して治療にあたる「チーム医療」が重要です。

やってはいけないこと

非定型歯痛と知らずに、「痛みがあるから抜歯してしまおう」「別の歯医者で再治療してもらおう」と考えるのは非常に危険です。健康な歯を抜いてしまっても、痛みが続く、あるいは悪化する恐れがあります。

また、自己判断で痛み止めを飲み続けたり、ネット情報に頼ってサプリや民間療法に走るのもおすすめできません。

まとめ:歯の痛みの裏に潜む「見えない病気」

非定型歯痛は、目に見える原因がないために誤解されやすく、適切な治療にたどり着くまでに時間がかかることも多い病気です。「虫歯じゃないのに歯が痛い」という症状に悩んでいる場合は、非定型歯痛の可能性も視野に入れて、歯科や専門医に相談することをおすすめします。

痛みは「気のせい」ではありません。確かに存在している痛みです。正しい知識と診断で、少しでも早く苦しみから解放される道を見つけましょう。