歯をすべて失った場合に用いられる「総義歯(フルデンチャー)」には、さまざまな材質の選択肢があります。その中でも代表的なのが「レジン床義歯」と「金属床義歯」です。どちらも失った歯の機能を補い、食事や会話を助ける重要な装置ですが、それぞれに異なる特徴があり、患者さんのニーズや生活スタイルに応じた選択が求められます。
この記事では、レジン床義歯と金属床義歯の構造、メリット・デメリットを比較し、どちらがどのようなケースに適しているのかを詳しく解説します。
レジン床義歯とは?
レジン床義歯は、義歯全体が「レジン」と呼ばれる樹脂で作られている総義歯です。保険診療で提供される標準的な義歯で、日本国内ではもっとも多く使用されています。比較的安価で作製でき、修理や調整も容易なのが特徴です。

メリット
- 経済的負担が少ない
保険適用内で作製できるため、費用を抑えたい方に向いています。 - 修理や調整がしやすい
レジンは加工がしやすいため、破損時の修理や、口腔内の変化への対応が容易です。 - 作製期間が比較的短い
金属床に比べ、完成までの工程が少ないため、治療期間も短くて済む場合があります。
デメリット
- 強度が劣る
材質が樹脂のため、落とすと割れやすい、また噛む力に耐えるためには厚みが必要です。 - 装着感が重く、違和感がある
床が厚くなる分、舌触りや発音、装着感に違和感を覚える人も多いです。 - 熱の伝導性が低い
食べ物や飲み物の温度が伝わりにくく、味覚の面で違和感を感じる方もいます。

金属床義歯とは?
金属床義歯は、義歯の床部分(口の中で粘膜と接する部分)が金属で作られた義歯です。使用される金属には、チタン、コバルトクロム合金などがあり、保険外診療(自費診療)で提供される高機能な義歯です。

メリット
- 薄くて硬い
金属は強度が高いため、レジンよりも薄く作れることで、違和感が少なくなります。 - 装着感が良好
舌感や発音への影響が少なく、長時間の装着でも快適です。 - 熱伝導性が高い
金属は熱をよく伝えるため、温かい・冷たい食べ物の温度が自然に感じられます。 - 変形や破損に強い
耐久性に優れ、長期使用にも耐えます。
デメリット
- 費用が高額になる
保険適用外のため、10万円以上かかることが一般的です。材質によってはそれ以上になる場合もあります。 - 修理が難しい
金属部分の修理には専門的な技術が必要で、即日対応が難しいこともあります。 - 作製に時間がかかる
精密な技工が必要なため、完成までに数週間を要する場合があります。

レジン床義歯と金属床義歯の比較表
比較項目 | レジン床義歯 | 金属床義歯 |
---|---|---|
材質 | 樹脂(レジン) | 金属(チタン、コバルト等) |
強度 | 割れやすい | 非常に強い |
厚み | 厚め | 薄くて軽い |
装着感 | 違和感があることも | 快適 |
温度の伝わり方 | 感じにくい | 自然に感じられる |
修理のしやすさ | 簡単 | 難しい |
作製期間 | 短い | 長い |
費用 | 安価(保険適用) | 高価(自費診療) |
どちらを選ぶべきか?
選択肢は患者さんのライフスタイル、希望、口腔内の状態、予算などによって異なります。
- 費用を抑えたい方や一時的な義歯を必要とする方:レジン床義歯が適しています。
- 快適さ、耐久性、長期的な使用を重視する方:金属床義歯がおすすめです。
特に食事の楽しみを大切にされる方にとって、金属床義歯の熱伝導性と装着感の良さは大きな魅力です。一方で、初めて総義歯を装着する方には、まずレジン床で様子を見るという選択肢も合理的です。
まとめ
総義歯の選択は、単なる「ものづくり」ではなく、患者さんのQOL(生活の質)に直結する重要な判断です。レジン床義歯と金属床義歯は、それぞれに特徴があり、どちらが優れているというよりも、どちらが「その人に合っているか」が重要になります。
歯科医師と十分に相談し、自分の生活や予算に合った最適な義歯を選びましょう。長く快適に使える義歯こそが、健康で充実した生活への第一歩となります。