私たち歯科医師が診療中によくお伝えする「TCH(Tooth Contact Habit:歯の接触癖)」。
名前だけ聞くと専門的に感じますが、実は多くの人が 自分では気づかないまま毎日くり返している癖 です。
TCH自体に痛みはありません。
しかし、長く続くと 歯の痛み、しみる症状、詰め物の破損、顎関節症(あごの不調)、肩こり まで引き起こすこともあります。
この記事では、TCHとは何か、なぜ起こるのか、そしてどのように改善していくのかを、患者さん向けにできるだけわかりやすく解説します。

1. TCH(歯の接触癖)とは?
● 上下の歯が“軽く触れている状態”が続く癖のこと
本来、私たちの歯は 食事のとき以外は触れていません。
上下の歯の間には、通常 2〜3mmほどのすき間(安静空隙) があり、これが正しいリラックスした状態です。
しかし、仕事中・スマホ使用中・運転中・読書中など、何かに集中していると
- ほんの軽く上下の歯が触れる
- こめかみや顎に力が入る
- 気づくと噛みしめている
といった状態が長く続くことがあります。
これが TCH=歯の接触癖 です。
● 気づきにくいのが最大の問題
TCHは、強く噛みしめる「歯ぎしり」「クレンチング」と違い、軽い接触 であるため、本人が自覚できないことが非常に多いのが特徴です。
2. なぜTCHが問題になるのか?
● 歯や顎は「長時間の弱い力」に弱い
歯ぎしりのような強い力は短時間ですが、TCHは
- 1日数時間つづく
- 毎日くり返す
という、“弱い力 × 長時間” の組み合わせになります。
これは歯や顎の関節、筋肉にとって非常に負担になります。
3. TCHが引き起こすトラブル
TCHが続くと、次のような症状が起こりやすくなります。
● ① 歯がしみる(知覚過敏)
軽い力でも長時間歯を押し続けると、エナメル質が疲労して象牙質が過敏になり、冷たいものがしみやすくなります。

● ② 歯の痛み・重だるさ
歯根膜が押され続けることで痛みが出ることがあります。
レントゲンでは異常が見つからないのに痛む場合、TCHがよく原因になります。
● ③ 詰め物・被せ物が外れやすい
持続的な力で金属やセラミック、接着剤に負担がかかり、トラブルを繰り返す患者さんもいます。
● ④ 顎関節症(口が開きにくい・音が鳴る・痛い)
顎の筋肉(咬筋や側頭筋)が緊張し続けることで、
「頬のこり」「こめかみの痛み」「顎が疲れる」などの症状につながります。
● ⑤ 頭痛・肩こり
長時間の力みが首や肩の筋肉に影響し、姿勢の悪化・血流低下を招きます。

4. TCHはなぜ起こるのか?
TCHはさまざまな要因で起こります。代表的なものはこちらです。
● ① ストレス・緊張
ストレスを感じると体が防御姿勢になり、無意識に力が入ります。
● ② 集中しているときの姿勢
スマホ・パソコン使用時は特に顎に力が入りやすい姿勢になります。
● ③ 噛み合わせの違和感
詰め物が高い・歯が移動したなど、軽い違和感であっても噛み合わせを確認する癖が出やすくなります。
● ④ 眠りの質の低下
寝不足・睡眠の浅さは、日中の筋緊張を引き起こしやすくします。
5. TCHのセルフチェック
以下に1つでも当てはまった場合、TCHの可能性があります。
- 仕事中やスマホを見ているとき、気づくと歯が触れている
- 顎の筋肉が疲れやすい
- 朝起きると顎が重だるい
- 冷たいものや歯ブラシでしみる歯がある
- 歯科で詰め物がよく外れる
- レントゲンでは問題なしと言われたが歯が痛い
6. 今日からできるTCH改善法(セルフケア)
TCHの治療は薬でもマウスピースでもなく、行動療法(クセの改善) が中心です。
今すぐできる方法をまとめます。
● ① 「上下の歯を離す」を意識する
最も重要なのがこれです。
- 唇は軽く閉じる
- 上下の歯は接触させない
- 舌は上顎の前方に軽く置く
これが正しい安静位です。
● ② 目に入る場所にメモを貼る(非常に効果的)
- 「歯を離す!」
- 「リラックス」
- 「力を抜く」
パソコン・スマホ・車のダッシュボードに貼るだけでも効果が大きく、研究でも推奨されています。
● ③ 深呼吸の習慣化
歯の接触は呼吸が浅くなると増えるといわれます。
作業の区切りごとに深く息を吸って、ゆっくり吐きましょう。
● ④ 姿勢の改善
- 前傾姿勢
- スマホ首
- 肩をすくめる癖
これらはTCHを誘発します。
イスの高さ、モニター位置を見直すだけでも大きく改善します。
● ⑤ 噛みしめの原因になる“高い詰め物”がないか点検
気になる方は歯科でチェックしてもらうと安心です。
7. 歯科医院でできるTCHの治療・サポート
TCHは“クセ”であるため、継続的に意識しないと改善しません。
歯科医院では以下のようなサポートが可能です。
● ① 咬合のチェック
詰め物・被せ物が高い場合は調整します。
● ② 顎関節症を併発している場合の治療
筋肉の緊張が強い場合、ストレッチ指導・鎮痛薬・理学療法などを行います。
● ③ 就寝時のマウスピース(スプリント)
TCHそのものを治すものではありませんが、歯の負担を減らし、歯ぎしりによる摩耗を防ぎます。
8. まとめ:TCHは“気づけば治る”が合い言葉です
TCHは誰にでも起こり得る、ありふれた癖です。
しかし、放置すると歯の痛み・知覚過敏・詰め物の破損・顎関節症など、さまざまなトラブルの原因になります。
一方で、TCHの治療は難しいものではありません。
気づく → 歯を離す
この繰り返しが最大の治療であり、もっとも効果的です。
「最近なんだか歯が痛い」「顎が疲れる」「詰め物がよく外れる」
こんな症状があれば、TCHが関係しているかもしれません。
少しでも気になる方は、お気軽に歯科医院で相談してみてくださいね。






















