それは「咬合異常感」というものかも知れません
「歯の治療を受けた後から、なんだかかみ合わせがおかしい」「違和感があるのに、歯科医は『問題ない』と言う」――そんな経験はありませんか? もしかするとそれは、「咬合異常感(こうごういじょうかん)」という状態かもしれません。
この記事では、咬合異常感とは何か、なぜ起こるのか、どんな対処法があるのかについて詳しく解説します。
咬合異常感とは?
咬合異常感とは、「かみ合わせに違和感がある」と本人が感じているのに、客観的な検査では明らかな異常が見つからない状態を指します。別名「かみ合わせ症候群」や「咬合違和感症候群」とも呼ばれます。
この状態は、見た目やレントゲン、咬合紙などによる検査では正常とされるにもかかわらず、患者さん本人は強い違和感や不快感、時には痛みすら感じることがあります。

よくある症状
- 歯が「当たりすぎている」感じがする
- どこかの歯が浮いているように感じる
- 左右のバランスが悪くなった気がする
- 顎に違和感があり、無意識に動かしてしまう
- 食べ物がうまく噛めない、噛みにくい
なぜ起こる? 咬合異常感の原因
咬合異常感の原因は一つではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
1. 歯科治療による微細な変化
歯の詰め物、被せ物、矯正などの治療によって、わずか数ミクロン(1ミクロン=1/1000ミリ)単位の高さの変化が起こることがあります。口の中は非常に敏感な感覚器官なので、こうした微細な変化でも違和感を強く感じる方がいます。
2. 精神的・心理的要因
咬合異常感は「心身症」に分類されることもあります。不安やストレスが強いと、自分の体に過剰に注意が向き、小さな違和感を「異常」として捉えてしまうことがあります。とくに完璧主義的傾向や神経質な性格の人に多いとされます。
3. 脳の感覚異常(感覚過敏)
最近の研究では、脳の感覚処理機能が過敏になっていることも原因の一つと考えられています。実際に、咬合異常感のある方の中には、味覚、触覚、聴覚などでも「敏感すぎる」傾向が見られることがあります。

咬合異常感と診断されるまで
患者さんがかみ合わせの違和感を訴えると、歯科医は通常、咬合調整を行ったり、被せ物の高さを微調整したりします。しかし、何度調整しても症状が改善しない、または逆に悪化するような場合、「咬合異常感」を疑うことになります。
この段階になると、次のようなアプローチが取られることがあります:
- かみ合わせの記録を取り、変化を数値化
- 歯科心身症や口腔心身症の専門医に紹介
- 心理的カウンセリングの導入
- 投薬(抗不安薬や抗うつ薬)の検討
どのように対処すべきか?
咬合異常感に対しては、焦らず、慎重に対処することが重要です。以下に一般的な対処法を紹介します。
1. 過度な治療は避ける
違和感があるからといって何度もかみ合わせを削ると、かえって悪化することがあります。削れば削るほど、かみ合わせのバランスが崩れ、歯にも負担がかかります。必要以上の調整は控えましょう。
2. 自律神経を整える生活習慣
ストレス管理や睡眠の改善、適度な運動、リラックス法(ヨガや瞑想など)は、自律神経のバランスを整える効果があります。心の状態と身体感覚は密接につながっているため、生活習慣の見直しはとても重要です。
3. 心理的アプローチ
認知行動療法(CBT)などの心理療法が効果を示すこともあります。「自分の感覚は異常ではない」「すぐに治さなくてもよい」という受け入れの姿勢が、症状の改善に向かう第一歩となります。

4. 専門医の受診を検討する
口腔心身症や心療歯科、精神科の専門医が対応できるケースもあります。一般歯科では対応が難しいこともあるため、紹介状をもらって専門の医療機関を訪ねるのも一つの方法です。
経験者の声:回復には「時間と理解」が必要
咬合異常感は、他人にはなかなか理解されにくい症状です。そのため、孤独や不安を感じる方も少なくありません。
実際にこの症状を経験した方の多くは、「焦らず、信頼できる医師とともに経過を見守った」「生活習慣やメンタルケアを意識したことで、徐々に良くなった」と語っています。
症状がすぐに消えるわけではなくても、「これは脳や心の過敏な反応なんだ」と理解することで、必要以上に恐れずに済むようになります。
最後に:あなたの感覚は“本物”です
たとえ検査で異常が出なくても、あなたが感じている違和感は「存在しないもの」ではありません。咬合異常感は、体の問題と心の問題のはざまで生じる、非常に繊細な症状です。
無理に治そうとせず、まずは「理解してくれる人」と出会うことが、回復への第一歩です。
歯科医だけでなく、心療内科、臨床心理士、カウンセラーなど、多方面からのサポートを受けながら、少しずつ心と体のバランスを取り戻していきましょう。
参考にしたい情報源
- 日本歯科心身医学会
- 心療歯科専門外来(大学病院など)
- 認知行動療法の専門カウンセラー
- 医療メディア・患者会の体験談