歯周病の治療で、最初に行われる大切な処置の一つが歯石取りです。

「歯石が付いているので取りましょう」

歯科医院で、このように言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。

しかし、

「そもそも歯石って何?」
「歯垢とは違うの?」
「痛くないのに、どうして取る必要があるの?」
「歯石取りがものすごく痛かったのはなぜ?」

という疑問を持っている方もいると思います。

歯石がたくさんついていて口臭がしている男性のイラスト図

特に歯周病が進行している場合、歯石は歯茎の中の深いところまで付着していることがあります。その歯石を除去するときには、痛みや出血を伴うこともあります。

そのため、何を目的として処置を行っているのか分からないまま治療を受けると、

「歯茎を傷つけられたのでは?」
「こんなに痛い処置を本当にする必要があるの?」

と不安になってしまうことがあります。

今回は、歯石とは何なのか、なぜ歯石を取る必要があるのか、そして歯石取りが痛くなることがあるのはなぜなのかを詳しく確認してみましょう。

〇まず「歯垢」と「歯石」は何が違う?

歯垢と歯石は同じものではありません。

簡単に言えば、

歯垢(プラーク)=細菌を主体とした柔らかいバイオフィルム

歯石=歯垢が石灰化して硬くなったもの

と考えると分かりやすいでしょう。

●歯垢(プラーク)とは?

歯垢は「食べかす」と思われることがありますが、実際にはそうではありません。

歯垢は非常に多くの細菌と、細菌が作り出す物質などから構成されたバイオフィルムです。

バイオフィルムとは、単に細菌がバラバラに歯に付着しているのではなく、細菌同士が集まり、自分たちを守るような構造を作った状態です。

イメージとしては、細菌が集まって「ぬるぬるした集合住宅」を作っているようなものです。

歯周病では、この細菌性バイオフィルムが歯茎に炎症を起こす重要な原因になります。

ただし、歯垢はまだ柔らかいため、適切な歯磨きや歯間ブラシ、デンタルフロスなどによって自分で取り除くことができます。

歯垢についての解説図。バイオフィルム。

つまり、

「歯石になる前の歯垢の段階で、できるだけ毎日取り除く」

ことが非常に重要なのです。

●歯石とは?

歯垢を十分に取り除くことができず歯面に残していると、唾液や歯肉溝滲出液などに由来するカルシウムやリン酸などのミネラル成分によって石灰化していきます。

こうして硬くなったものが歯石です。

歯石の大部分はリン酸カルシウムなどの無機成分で、そのほかに細菌由来の成分やタンパク質などが含まれています。

ここで大切なのは、

「歯石そのものが歯周病を起こす最大の原因」という単純な話ではない

ということです。

歯周病の炎症において中心的な役割を果たしているのは、歯石そのものよりも、その表面などに存在する細菌性バイオフィルムです。

歯石の表面は凹凸があり、歯ブラシでは清掃しにくいため、そこに新しいプラークが付着・成熟しやすくなります。

歯石についての解説図、歯垢、リン酸カルシウム

つまり歯石は、

「細菌が住みつきやすく、しかも患者さん自身では清掃しにくい環境を作ってしまう」

ことが問題なのです。

そして一度硬い歯石になってしまうと、通常の歯ブラシでは取り除くことができません。

そのため歯科医院で専門的に除去する必要があります。

〇歯石には2種類ある

実は、歯石はすべて同じものではありません。

歯茎との位置関係によって、大きく

①歯肉縁上歯石
②歯肉縁下歯石

の2種類に分けられます。

この違いを知っておくと、「簡単に取れる歯石」と「取るのが大変な歯石」がある理由が分かります。

●歯肉縁上歯石

歯茎より上に付いていて、口を開けると確認できる歯石を歯肉縁上歯石といいます。

一般的には白色、黄白色、乳白色などをしています。

特に付きやすいのが、

・下の前歯の裏側
・上の奥歯の頬側

などです。

なぜこのような場所に歯石が付きやすいのでしょうか。

大きな理由の一つが唾液腺の開口部です。

歯肉縁上歯石についての解説図。顎下腺、舌下腺。耳下腺。

下の前歯の裏側付近には顎下腺・舌下腺からの唾液が流れ込む場所があり、上の奥歯の頬側付近には耳下腺からの唾液が流れ込む場所があります。

唾液にはカルシウムやリン酸などが含まれているため、その周辺では歯垢の石灰化が起こりやすくなります。

歯肉縁上歯石は目で確認できることが多く、歯肉縁下歯石に比べると比較的除去しやすい傾向があります。

●歯肉縁下歯石

一方、歯茎の中、つまり歯周ポケットの内部に付着している歯石を歯肉縁下歯石といいます。

こちらは褐色から黒っぽい色をしていることが多く、歯肉縁上歯石より硬く、歯根面に強く付着していることがあります。

黒っぽく見えるのは、歯肉溝滲出液や歯茎からの出血に由来する血液成分などが関係しています。

そして、この歯肉縁下歯石が歯周病治療では特に問題になります。

歯肉縁下歯石の解説図。歯周ポケット。

歯茎の中に隠れているため、患者さん自身が歯ブラシで取り除くことはできません。

さらに歯科医師や歯科衛生士からも直接見えないことが多く、器具で根面を触った感覚などを頼りに除去することになります。

歯周ポケットが深くなればなるほど処置は難しくなります。

〇どうして歯石取りは痛いことがあるの?

ここは患者さんにぜひ知っておいていただきたいところです。

「以前の歯医者では歯石取りは痛くなかったのに、今回はすごく痛かった」

という経験をすると、

「今回の歯科衛生士さんが下手なのでは?」

と思ってしまうかもしれません。

しかし、歯石取りの痛みは歯石が付いている場所や歯茎の炎症、歯周ポケットの深さなどによって大きく変わります。

歯茎より上に付いた歯肉縁上歯石を除去するだけであれば、比較的痛みが少ないことがあります。

一方、歯周ポケットの奥深くに硬い歯肉縁下歯石が付着している場合には、器具を歯茎の中まで入れて処置する必要があります。

さらに歯周病で歯茎に強い炎症があると、組織が刺激に敏感になっているため、器具が触れるだけでも痛みを感じやすくなります。

また歯根面が露出している場合には、処置後に一時的な知覚過敏が出ることもあります。

したがって、

「歯石取りが痛かった=乱暴な処置だった」

とは限りません。

歯石取りが痛い理由についての解説図。衛生士。歯根。歯周ポケット。炎症。

歯周病の状態によっては、どうしても痛みを感じやすい処置になることがあります。

もちろん、強い痛みを我慢しながら治療を受ける必要はありません。

深い歯周ポケットの処置や痛みが強く予想される場合には、局所麻酔を使用して歯肉縁下の処置を行うこともできます。

痛みが心配な方は、遠慮せず歯科医師や歯科衛生士に伝えてください。

〇歯石はどうやって取るの?

歯石を除去する器具にはいくつかあります。

代表的なのが、

・手用スケーラー、キュレット
・超音波スケーラー
・音波(エアー)スケーラー

などです。

キュレット。超音波スケーラー。エアスケーラーの図。

超音波スケーラーは高速で細かく振動するチップを歯石に当てて除去します。

一方、手用器具は歯や歯根の形態に合わせて使用し、付着した歯石や沈着物を機械的に除去します。

どちらか一方だけが優れているというより、歯石の場所や量、歯根の形、歯周ポケットの深さなどに合わせて使い分けたり、併用したりします。

〇「歯石を全部取れば歯周病が治る」わけではない

ここも非常に大切です。

歯周病治療というと、

「歯石を全部取れば終了」

と思われるかもしれません。

しかし、実際の歯周病治療はそれほど単純ではありません。

歯周病の原因となる細菌性バイオフィルムは毎日作られます。

そのため、歯科医院で一度きれいに歯石を取っても、毎日の歯磨きが不十分であれば再びプラークが蓄積し、やがて歯石が形成されます。

歯周基本治療では、歯石除去だけでなく、

・正しいブラッシング方法の習得
・歯間ブラシやフロスの使用
・プラークが溜まりやすい場所の改善
・必要に応じた噛み合わせなどへの対応
・喫煙などのリスク因子への対応
・全身状態の確認

歯石取りで歯周病が治るわけではないことの解説。セルフケア、プロフェッショナルケア。

などを組み合わせて治療を行います。

つまり、

歯科医院で行うプロフェッショナルケアと、患者さん自身が行う毎日のセルフケアの両方が必要

なのです。

〇歯茎の奥深くの歯石はどうする?

歯周基本治療では、歯肉縁上のプラークや歯石を除去するとともに、必要に応じて歯周ポケット内部の歯肉縁下バイオフィルムや歯石を除去します。

以前は「ルートプレーニング」という言葉から、歯根表面を徹底的に削ってツルツルにするようなイメージを持たれることもありました。

歯茎の奥の歯石取りの解説。スケーリング。ルートプレーニング。バイオフィルム。根面。

現在では、健康な歯根面を必要以上に削ることが目的ではありません。

歯周組織の炎症を改善するために、歯肉縁下の細菌性バイオフィルムや歯石などを適切に除去する

ことが重要と考えられています。

歯周基本治療を行った後は、歯茎の炎症や歯周ポケットの深さ、出血などをもう一度検査します。

これを再評価といいます。

〇歯石を取っても深い歯周ポケットが残ったら?

歯周基本治療によって多くの部位は改善します。

しかし、歯周病が進行していて歯周ポケットが非常に深い場合や、歯根の形が複雑な場合、奥歯の根分岐部などでは、非外科的な処置だけでは十分に清掃できないことがあります。

そのような場合には再評価を行ったうえで、

・もう一度歯肉縁下の清掃を行う
・経過を観察する
・歯周外科治療を検討する

など、状態に応じて次の治療を選択します。

歯周外科治療では歯茎を開くことで、通常では見えない歯根面や骨の状態を直接確認できるようになります。

そのため、深い部分に残った歯石やバイオフィルムを直視下で除去できるという利点があります。

不快歯周ポケットの解説図。再評価。歯周外科。メンテナンス。

ただし、

「深い歯石があるから、すぐに歯茎を切る」

というわけではありません。

まず歯周基本治療を行い、その治療に歯周組織がどのように反応したのかを再評価したうえで、必要な部位について歯周外科治療を検討するのが基本的な流れです。

〇歯石は自分で取ってもいい?

最近ではインターネットなどで家庭用のスケーラーが販売されています。

しかし、自分で歯石を取ろうとすることはおすすめできません。

歯石と歯の境界を正確に判断するのは難しく、無理に器具を使用すると歯茎を傷つけたり、歯根面を傷つけたりする可能性があります。

さらに、本当に重要な歯肉縁下歯石は歯茎の中に隠れているため、自分では確認することができません。

「見えている歯石だけ取れば大丈夫」とは限らないのです。

歯石取り。リスク。見えない歯石。

歯石が気になる場合には、歯科医院で歯周ポケットの検査なども含めて確認してもらいましょう。

〇まとめ

歯石について確認してきました。

まず覚えておきたいのは、

歯垢と歯石は同じものではない

ということです。

歯垢(プラーク)は細菌を主体とした柔らかいバイオフィルムであり、歯磨きなどによって自分で除去できます。

一方、その歯垢が石灰化して硬くなったものが歯石です。

歯石になると通常の歯磨きでは除去できなくなり、その表面は細菌性バイオフィルムが付着しやすい環境になります。

さらに歯周病が進行すると、歯茎の中の深いところに黒っぽい歯肉縁下歯石が付着することがあります。

このような歯石を除去するときには、器具を歯周ポケットの内部まで入れる必要があるため、痛みや出血を伴うことがあります。

しかし、それには理由があります。

歯石取りは単に、

「歯をきれいにするためのクリーニング」

ではありません。

歯周病の患者さんにとっては、

「歯茎の炎症を改善し、歯を支える組織をできるだけ長く守るための治療」

という意味があります。

そして、歯科医院で歯石を取ることだけが歯周病治療ではありません。

最も大切なのは、歯石になる前の柔らかいプラークの段階で、毎日の歯磨きや歯間清掃によってできるだけ取り除くことです。

「歯科医院で歯石を取ること」と「自宅でプラークを増やさないこと」。

この二つを組み合わせることが、歯周病を長期的にコントロールする基本になります。

歯石が気になる方、歯磨きをすると出血する方、最近歯科医院でメンテナンスを受けていない方は、一度歯周病の検査を受けてみてください。

歯石取りのまとめの図。セルフケア。プロフェッショナルケア。バイオフィルム。歯石。歯垢。歯肉縁下歯石。