今回は、歯周病治療に関して非常に大切なお話をさせていただきます。それは、「歯周病治療は、罹患する前の状態に戻すことができるわけではない」という事実についてです。
歯科医院で「歯周病です」と診断されたとき、多くの患者さんが「じゃあ、治療すれば元に戻るんですね?」と質問されます。ですが、残念ながら歯周病は一度進行してしまうと、完全に元通りに戻すことはできない病気です。
今回はその理由と、ではなぜ治療をすることが重要なのかについて、詳しくご説明します。
■ 歯周病とはどんな病気か?
歯周病は、歯を支える骨(歯槽骨)や歯ぐきが、細菌によって徐々に破壊されていく病気です。初期のうちは痛みもなく、「なんとなく歯ぐきが腫れてるかな?」くらいの違和感しか感じません。そのため、気づいたときにはかなり進行しているケースが多いのです。
歯周病の進行はゆっくりですが確実で、放置すると最終的には歯が抜けてしまいます。これは虫歯のように歯そのものが壊れるのではなく、歯を支える土台が失われてしまうためです。

■ なぜ元に戻らないのか?
歯周病によって失われるのは、主に以下のような組織です。
- 歯ぐき(歯肉)
- 歯の周りの靭帯(歯根膜)
- 歯を支える骨(歯槽骨)
これらは体の中でも非常に繊細で、一度破壊されると自然には再生しません。特に歯槽骨は、たとえ治療によって炎症が止まっても、自動的に元の形には戻らないのです。
もちろん、近年では再生療法という高度な治療も開発されています。エムドゲインやリグロスなどの薬剤を使い、部分的に骨の再生を促すことは可能です。ただし、それも限られた条件のもとでのみ効果があり、完全に健康な歯周組織を取り戻せるわけではありません。
つまり、歯周病治療の目的は「元に戻す」ことではなく、「それ以上悪化させない」ことなのです。

■ 治療する意味はあるのか?
ここまで読むと、「元に戻らないなら、治療しても意味がないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。
歯周病の進行を止めることで、残っている歯や骨を守ることができるのです。たとえ多少グラつきがあっても、炎症を抑えて安定させることで、今ある歯を長く使い続けることが可能になります。
また、歯周病は口の中だけの問題ではありません。糖尿病や心筋梗塞、早産など、全身の病気とも深く関わっていることが、数多くの研究で明らかになっています。歯周病をコントロールすることは、健康寿命を延ばすことにもつながるのです。

■ 治療後は「管理」がカギ
歯周病治療は一度きりの処置で完了するものではありません。治療後は「メインテナンス(定期管理)」を行い、再発や再進行を防ぐことが極めて重要です。
私たちが目指しているのは、患者さんと一緒に、できるだけ多くの歯を、できるだけ長く保つことです。そのためには、患者さんご自身の**毎日のセルフケア(ブラッシング)**と、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが必要不可欠です。

■ 現実を知ることが第一歩
「治れば元に戻る」と思って治療に期待しすぎてしまうと、思ったような結果にならなかったときに落胆し、治療への意欲が下がってしまいます。
しかし、現実を正しく知ることで、「何のために治療をするのか」「何を目標とするのか」が明確になります。歯周病治療の本当のゴールは、生活の質を保ち、快適な食生活を続けることなのです。
■ まとめ
- 歯周病によって失われた組織(骨や歯ぐき)は、完全には元に戻りません。
- 治療の目的は「進行を止め、今ある状態を守ること」です。
- 放置すれば確実に悪化し、やがて歯を失ってしまいます。
- 適切な治療とメインテナンスにより、歯の寿命を大きく延ばすことができます。
私たちは、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療と管理計画をご提案します。少しでも「歯ぐきが腫れてる気がする」「出血が気になる」と感じたら、どうか放置せずに、早めにご相談ください。
「元通りにならないからこそ、早期発見・早期治療が大切」なのです。
ご不安な点やご質問があれば、いつでもお気軽にご相談くださいね。