「蓄膿症（副鼻腔炎）」は鼻の病気というイメージがありますが、実は 歯が原因で起こる蓄膿症 が存在します。
それが 歯性上顎洞炎（しせいじょうがくどうえん） です。

一般の蓄膿症とは治療法も原因も大きく異なるため、原因を間違えると治らないこともある要注意の病気です。

ここでは、患者さん向けに歯性上顎洞炎の仕組み・症状・治療方法・予防について分かりやすく解説します。

歯性上顎洞炎とは？

人間の顔の中には、いくつか「空洞」があります。そのうちの一つが 上顎洞（じょうがくどう） と呼ばれる、ほほの奥にある空洞です。

上顎洞は、口の中の 奥歯（特に上の小臼歯・大臼歯） のすぐ上に位置しており、歯の根っこが上顎洞に非常に近い人もいます。

歯が原因で細菌が上顎洞に広がる

虫歯や歯周病、歯の根の先にできる病変（根尖病変）などから細菌が広がると、
上顎洞に炎症が起きてしまうことがあります。
これが 歯性上顎洞炎 です。

一般的な鼻からの感染による副鼻腔炎（鼻性上顎洞炎）とは原因が違うため、
鼻の治療だけでは治らないのが大きな特徴です。

歯性上顎洞炎の主な原因

歯性上顎洞炎は、歯のトラブルが引き金になる病気です。代表的な原因は以下の通りです。

① 根の先の病気（根尖病変）

最も多い原因です。
虫歯が深く進行し、歯の神経が死んでしまうと、根の先に膿がたまります。
これが上顎洞に近いと、膿や細菌が上顎洞へ広がり炎症を起こします。

② 歯周病の悪化

歯周病が進行すると、歯を支える骨が溶け、細菌が上顎洞に近づきやすくなります。
特に上の奥歯は上顎洞に近いため要注意です。

③ 抜歯後のトラブル

上の奥歯を抜いた後、まれに「上顎洞と口が交通する（口腔上顎洞交通）」ことがあります。
ここから細菌が入り込み、炎症を引き起こす場合があります。

④ インプラントや歯科治療が原因となる場合

インプラントが上顎洞内に迷入したり、根管治療材料が上顎洞に飛び出したりすると、
炎症の原因になることがあります。

歯性上顎洞炎の主な症状

鼻性の蓄膿症と似ていますが、いくつか特徴があります。

片側だけに症状が出やすい

歯性上顎洞炎は 右か左の片側のみ に起きることがほとんどです。
鼻性蓄膿症は両側に出ることが多いため、ここが大きな手掛かりになります。

代表的な症状

  • 片側の頬が重い、痛い
  • 片側の鼻づまり
  • 黄色や緑っぽい鼻水（においが強いことも）
  • 上の奥歯の痛み
  • 食べ物の味がしない
  • 鼻の奥から嫌な臭いがする
  • 頭痛、目の下の痛み

特に 歯と鼻の症状が同時に出る 場合は、歯性上顎洞炎の可能性が高くなります。

歯性上顎洞炎の診断

歯科では、以下の検査で診断します。

▷ X線写真（レントゲン）

上顎洞内の陰影（モヤモヤした白い影）や、根の先の病気を確認できます。

▷ CT撮影

最も確実な方法です。
上顎洞の炎症範囲や、原因となっている歯を正確に確認できます。

▷ 口腔内診査

歯ぐきの腫れ、虫歯、詰め物の状態、噛んだときの痛みなどをチェックします。

歯性上顎洞炎の治療方法

歯性上顎洞炎は、歯の治療をしないと治りません。
鼻だけを治療しても再発します。

治療は原因によって異なりますが、一般的には以下のように進みます。

① 原因となっている歯の治療

  • 根管治療（歯の根の治療）
  • 歯周病治療
  • 抜歯（どうしても保存が難しい場合）

根管治療によって根の先の感染を取り除くだけで、
上顎洞の炎症が改善するケースも多いです。

② 耳鼻科での治療を併用することもある

炎症が強い場合、耳鼻科で以下の治療を行うことがあります。

  • 抗生剤の服用
  • 鼻腔の洗浄
  • 上顎洞洗浄（膿を排出する処置）
  • 内視鏡手術（炎症が長引く場合）

③ 歯科と耳鼻科の連携が重要

歯性上顎洞炎は、
“歯科と耳鼻科の両方で見てもらう” のが最も確実で安全です。

放置するとどうなる？

歯性上顎洞炎を放置すると、以下のリスクがあります。

  • 慢性的な頬の痛み・頭痛
  • 鼻づまり・悪臭のある鼻水が続く
  • 口腔と上顎洞がつながる
  • 膿が広がり頬が大きく腫れる
  • インプラントや歯の保存が難しくなる

特に片側の鼻の症状が続くときは、早めに歯科でチェックすることが大切です。

予防方法

完全に防ぐのは難しいですが、多くは歯のトラブルから始まるため、
以下を意識することで発症リスクは大幅に下げられます。

● 定期的な歯科検診

根の病気や歯周病は、初期はほぼ無症状です。
悪化する前に治療することで上顎洞炎を防ぐことができます。

● 上の奥歯の治療をした後は経過観察を

根管治療後や抜歯後は、炎症が広がらないか注意して経過観察をしましょう。

● 鼻の症状が片側だけ続くときは歯科へ

「片側だけの蓄膿症」は歯が原因である可能性が高いため、
耳鼻科だけでなく歯科も受診するのが安心です。

まとめ：歯性上顎洞炎は早期発見・早期治療が大切

歯性上顎洞炎は、歯の感染が原因で起きる蓄膿症です。
鼻の治療だけでは改善しないことが多いため、
原因となっている歯をしっかり治療することが何より重要です。

  • 片側の鼻づまり
  • 片側の頬の痛み
  • 上の奥歯の痛み
  • 臭いのする鼻水

こんな症状がある場合は、早めに歯科医院でご相談ください。
適切な治療を行えばしっかり改善します。