個人情報が含まれておりますので時期と年齢はずらしてあります。

〇抜歯に至る道筋は人それぞれです、実例をもって解説します。

〇きっかけ

患者さんの状態を示すzン体のパノラマレントゲン写真

約5年前、左下の歯茎が腫れて痛むとのことで拝見することになりました。

レントゲンを撮って確認したところ左下の一番奥の歯が埋まっており、                    その真上の歯茎が腫れていました。

智歯の周囲が腫れる様子を説明するイラスト

↑上のイラストは完全に埋伏した8番(親知らず)が原因で炎症を起こして腫れている図です。

〇所見

左下の7番が智歯のごとく埋まっている様子を示すレントゲン写真。

この歯は左下の7番です。                                   下顎の骨に後ろ半分が埋まっており、                               前半分は骨から出ているものの歯肉に覆われており、                                     直接見ることができません。

このような埋まり方をしている親知らず(8番)をよく見ますが、                  7番がこうなっているのは比較的珍しいです。                           

完全に埋伏(埋まっている)しているせいで、上の7番とかみ合っていません。           つまりもともと存在していないのと同じ状況(かみ合わせ的に)ですが、              そこの歯茎が腫れているのです。

〇親知らず変な方向で生えてくる理由

ここからは親知らずの例にとって解説します。                          親知らずが腫れるのは「智歯周囲炎」という名がついています。                 「智歯」とは親知らずの事です。

智歯はまともに生えてくることがあまりありません。現代人は江戸時代以降硬いものを噛むことが少なくなり、そのせいで顎の発育が悪いということは定説です。つまり「えらの張った」顔つきではなく、「ほっそりした顔つき」が多いわけです。

江戸時代以降硬いものを噛まなくなった現代人があごがほっそりしている様子を比較して示すイラスト

永久歯が生えてくるのは実は順番があり、8番が一番最後です。                   7番の標準的な萌出時期は11才~13才であるのに対し、                          智歯の萌出時期は数年遅れて17才~21才。                                場合によっては30代40代になっていきなり生えてくることもあります。

そうなるといざ智歯が萌出しようとするが既に場所が存在しないことが多いのです。

これが原因で、まともな方向に智歯が生えてこなかったり、埋まったままだったりします。

〇親知らずが腫れる理由

よく「親知らずが腫れて、、」などという話を聞きますが、                     智歯自体が腫れることはありません。硬い歯ですから。

実態は智歯の周りの歯肉が腫れているということです。

半埋伏の智歯の周りの歯肉が腫れる様子を示すイラスト

上のイラストのような半埋伏の智歯はよく見かけます。                      歯肉が半分かぶさっているところに注目してください。

〇歯と歯肉、骨の接触(接着)

歯の構造と歯肉や骨との接着を示すイラスト。

上のイラストは歯の構造と歯茎や骨との位置関係を示しています。                 着目してほしいのは歯冠部のエナメル質は歯肉や骨とくっついていないことです。           

つまり先ほどの智歯の場合でも歯に乗っている歯茎はエナメル質と接着していません。

ここに汚れが入ると歯肉が腫れるわけです。

半埋伏の智歯の周りの歯茎が腫れている様子

〇完全埋伏の場合は、、、

完全埋伏の智歯がどのように埋伏しているかを説明するイラスト

口腔内に顔を出していない完全埋伏の智歯でも、                         上のイラストのごとく、完全に骨に埋まっているわけではありません。

そうなると手前の7番に接触している歯肉との隙間、                       埋まっている智歯とエナメル質の間が汚染され腫れてくるわけです。

完全埋伏の智歯が腫れている様子を示すイラスト

〇抜歯のススメ

まずは炎症を抑えるために抗生物質を投与しました。3日分。

腫れと痛みは軽快しましたがこれで解決したわけではありません。

抜歯をしないと原因をいつまでも温存したままですのでまた再発する危険があるわけです。

〇抜歯の実際

私の患者さんですが、抜歯は口腔外科に依頼をしました。

普通の抜歯ではなく、歯肉を切って開いたり、骨を削ったりする必要がありましたので、       手慣れている口腔外科を紹介いたしました。

完全埋伏の智歯の抜歯の具体的手順を解説するイラスト

歯科医師免許を持っているわけですから私が抜歯をしても違法ではありませんが、          余計に時間がかかったりトラブルの危険が増したりする可能性がある場合は、            手慣れた病院をご紹介することが役目だと思っています。

実際には口腔外科でもたっぷり1時間ほどかかったそうです。

術後も腫れ痛みは普通で出たそうです。5年後の現在は何も症状はありません。

患者さんの埋伏していた7番を抜歯して5年たった状態のレントゲン写真

術後5年たった状態のレントゲン写真。

完全に埋伏していた7番の状態を示すレントゲン写真

抜歯前の智歯の状況

〇まとめ

①親知らずはほかの永久歯が生えそろってから数年~十数年後に生えてこようとする。

②江戸時代以降硬いものを噛まなくなった人類はあごがほっそりして、親知らずがきちんと並ぶスペースがない場合が多い。

③一番最後に生えようとしてもスペースがないために親知らずは変な方向に出てくる。もしくは埋まったままである。

④半埋伏智歯、あるいは完全埋伏智歯はエナメル質の部分が歯肉と接着していないため、汚れが入って歯肉が腫れることがある。

⑤腫れた時は抗生物質を使って腫れを弾かせるのだが、それは対症療法で原因療法ではない。ゆえに再発するリスクがある。

⑥原因療法は抜歯一択である。埋まっている歯を抜くのであるから、歯肉を切ったり骨を傷ったりすることが多い。多少なりとも痛みは伴う。

⑦抜歯をしてしまえば、よっぽどのことがない限り普通の生活に戻れる。

抜歯をして5年たっている現実の口腔内写真
↑一番奥の歯のさらに後ろのところに歯が埋まっておりました。写真は抜歯後5年です。何の支障もありません。