個人情報が含まれておりますので時期や年齢はずらしてあります。

〇抜歯に至る道筋は人それぞれ、歯それぞれ。実例で解説します。

〇きっかけ

2020年8月に定期検診でおいでになった患者さんです。                      来院予定日のほんの数日前に食事中にガリっと音がして、                     そこから歯が動くようになったので診てほしいとのことでした。

処置前の歯列の状況を示す画像
一見しますと特に何も問題がなさそうです。
処置前の歯列の状況を示すレントゲン画像

上のパノラマ写真はさらに数年前の物です。                           画面右下の後ろから3番目の歯が動くとのことでした。

〇所見

カタカタ動く歯の一見何も起きていなさそうな状況を示す写真
下顎の後ろから3番目の歯が少しぐらぐらしていました。

ぱっと見は特に変なところはありません。                             色が少し不自然な白ですが、かなり昔に治療してメタルボンド冠が入っている歯です。

カタカタ動く歯の一見兄もないように見えるレントゲン写真

右から3番目の歯ですね。                                   典型的な根管治療~補綴がなされている歯です。                             推定10年以上前。

〇10数年前の治療の流れ。

まず、10数年前にどのような治療の過程でこうなったかを説明します。

10年前に行われた治療の説明。虫歯が歯髄近くにまで及んでいる様子。

10数年前のこの歯は上のイラストのような状態だったと推察できます。                    虫歯が神経にまで達していますので痛みも出ていたことでしょう。

虫歯を除去すると切削器具が歯髄に及んでしまっている様子を解説するイラスト

この歯の虫歯治療をすると、                                  当然ながら神経に触れてしまいますので根管治療も必要になってゆきます。

根幹治療になったために器具を根幹に差し込んでいる図

神経を取った後は根管をきれいに清掃します。きれいになったら根管を封鎖するために根管充填を行います。空洞のままですと、どこからかばい菌がやってきて住み着いてしまいますから。つまり感染根管になってしまうのです。

根管充填を終わったところの解説図

根管充填が終わって蓋をした状態を示しています。しかし、これで終わりではありません。

根管治療がなされた歯は、歯の質が脆くなってしまいます。蓋をしただけでは長期間にわたる咬合圧に耐えられず、歯根が割れてしまうリスクがあります。

根管にメタルコアを建てたところの図

そこで、まず根管の中から歯冠部にかけて金属の支柱(メタルコア)を立てます。

被せ物をかぶせた図

そして、その上から頑丈な素材で「被せて」しまいます。                       これで長期間にわたる咬合圧に耐えられるだけの強度を獲得できます。

この、「頑丈な素材で」というところが特に重要で、健康保険で言えばパラジウムの全部被覆冠、自費診療で言えばメタルボンド冠やジルコニアクラウンが適切で、健康保険のCAD/CAM冠では強度が不足と評価できます。

〇10年後それでもグラグラするようになったのはなぜか?

一見何も無いように見えて実は2次カリエスがあるレントゲン写真

この一見なにもないようなレントゲン写真ですが、実際には虫歯が入り込んでいました。

胴部を模式的に解説するイラスト。歯肉縁からカリエスが入っている

具体的には上のイラストのような感じです。                           被せ物が入ると自分の歯の部分は外の世界に露出していないように見えますが、                  歯磨きが良くないと、被せ物との境目から虫歯が入り込むことはたまにあります。

今回はそれが高じて被せ物と自分の歯との接着が一部損なわれてグラグラし始めたというわけです。

痛くはないのでぐらぐらするまで患者さんは虫歯が入っていることも自覚できません。

レントゲンでも「黒い影」が薄いうちは定期健診でも発見することは難しいのです。

〇当院での治療経過

歯肉縁から侵入したカリエスが広がり始めたところを解説する図

イラスト的には歯冠部のクラウンが崩れていますが、                       現実にはクラウン部はそのまま、中で虫歯が進んでしまっておりました。

一見何も問題がないように見える実際の口腔内写真
画面上から3番目の歯です。カタカタするもののメタルボンド冠は存在しています。
一見何も問題がないように見える実際の口腔内写真。側方面観
画面上、下顎の歯列の右から2番目のメタルボンド冠です。

〇そのままというわけにはいかないので引き抜いてみた。

カタカタ動く歯を引き抜いてみた状態の咬合面観
動くものをそのままでは治療ができませんので、麻酔をかけて引き抜いてみます。          歯茎の中に根っこだけが残っている状態です。
残根状態になってしまったことを示すイラスト

イラストの方がわかりやすいと思います。                            ここで着目していただきたいのはまだ虫歯の部分が残っているということです。

もう一つは歯茎より下に潜り込んだ部分しか残っていないということです。

虫歯といえどもすべてを直せるわけではありません。                       虫歯がどの位置にあるかで難易度は変わってきます。

歯肉縁上の虫歯は特に問題なく治せることを示す図

↑これは普通に治せる虫歯です。

歯肉縁下のカリエスが治すのが難しいことをイラストで説明

↑これは難易度が高いです。虫歯がさほど大きくなくても削り取るときに歯ぐきから出血させてしまい、確実に除去できるか、出来ているか判断が難しいのです。

わざと歯茎を切除して歯肉縁下だったものを歯肉縁上にする、                    という方法がありますが出血の制御はやはり難しく、難易度が高いと言わざるを得ません。

そして、

骨縁下にまで及んだカリエスは治療不可であることを解説した図

↑こうなると治療不可と言わざるを得ません。                          虫歯がさほど大きくなくても位置によっては治療ができないのです。                つまり抜歯となります。

〇カタカタしたまま放置した場合

もちろんいつかは冠と土台は外れてしまいますがそのころには虫歯が歯根全体に及んでしまっていますので抜歯になります。

残根状態の歯を放置してもさらに悪化するだけであることを解説した図

〇その後の経過

抜歯となり、歯肉の治癒後、一本義歯を入れて治療終了となりました。

一本義歯を説明する写真

〇まとめ

今回のように、冠が入っていて、それがカタカタ動く場合、                    中で致命的な虫歯ができていることが多く、抜歯となるケースがほとんどなのです。