「奥歯が噛むと痛いんです」――そんな症状で歯科を受診される患者さんは少なくありません。多くの方が「虫歯なのでは?」「歯周病が悪化したのでは?」と心配されます。
しかし、実際には食べかすが歯と歯の間に詰まって歯肉に炎症を起こしているだけということも多いのです。今回は、先日の患者さんとの会話をもとに、「食べかすによる歯肉の炎症」について詳しくご紹介します。


奥歯の痛みの特徴

患者さんの訴えはこうでした。

  • 「噛むと奥歯が痛い」
  • 「しみたりはしない」
  • 「歯茎が少し腫れている気がする」

つまり、冷たい水や甘いものに反応する「しみる痛み」ではなく、噛んだ時だけの痛みです。これは典型的に、歯と歯の間に食べかすが入り込み、歯肉を押して炎症を起こしている時の症状です。


実際に診察してみると…

口腔内を確認すると、奥歯の歯と歯の間にネギのような繊維質の食べ物が詰まっている状態でした。患者さんご自身も「歯茎が腫れている気がする」とのことで、まさに食片圧入による歯肉炎が原因と考えられました。

虫歯や進行した歯周病は見当たりませんでしたので、まずは日常の食後ケアを見直していただくことが重要です。


なぜ食べかすで痛みが出るのか?

食べかすが歯と歯の間に残ると、次のような流れで炎症が進みます。

  1. 朝食で挟まる → そのまま放置
  2. 昼食でさらに食べ物が押し込まれる
  3. 夕食でますます深く入り込む
  4. 食べ物が歯肉を圧迫 → 炎症が起きる
  5. 噛んだ時に「ズキッ」と痛む

この状態を**食片圧入(しょくへんあつにゅう)**といいます。最初は軽い違和感でも、放置すると歯肉の炎症が強くなり、さらに進むと歯周病の悪化や虫歯の発生につながります。


ケアの習慣がカギ!

今回の患者さんは、普段の歯磨きについてこう話していました。

  • 「軽くブラシを当てているだけ」
  • 「たまにフロスをやっている」

残念ながらこれでは食べかすは取り切れません。
歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れは落ちにくいため、歯間ブラシやデンタルフロスを毎食後に使うことが大切です。


毎食後に歯間掃除をおすすめする理由

歯と歯の間に食べかすを残したままにすると、炎症だけでなく以下のリスクも高まります。

  • 虫歯(特に歯と歯の間にできやすい)
  • 歯周病(歯茎からの出血・腫れ・骨吸収)
  • 口臭(食べかすが細菌で分解されて臭いの原因に)

つまり、歯間掃除を習慣化することは「痛みを取るため」だけでなく、将来の歯を守るためにも不可欠なのです。


歯と歯の間が広がってしまうことも

今回の患者さんでは、食べかすがたくさん詰まっていたため、すでに歯と歯の間が広がってしまっている状態でした。この隙間は食べ物が入り込みやすくなり、悪循環を招きます。

しかし希望もあります。きちんと歯間清掃を続けることで炎症が収まり、歯肉が引き締まって隙間が閉じてくる可能性があるのです。


今日からできる「食後のお手入れ」実践法

  1. 歯ブラシで全体を磨く
  2. 歯間ブラシまたはフロスを使う
    • 奥歯には歯間ブラシがおすすめ
    • 前歯や隙間の狭いところにはフロスを使用
  3. 必ず毎食後に行う

「たまに」ではなく「必ず」。これがポイントです。


まとめ

  • 「奥歯が噛むと痛い」原因は、虫歯や歯周病だけではなく、食べかすによる歯肉の炎症も多い。
  • 放置すると炎症が悪化し、歯周病や虫歯のリスクも高まる。
  • 毎食後の歯間清掃(歯間ブラシ・フロス)が最も大切な予防法
  • 継続すれば、開いた歯間が閉じてくる可能性もある。

「噛むと痛い」と感じたら、まずは歯科医院で診察を受けて原因を確認してください。そして、診断が「食べかすの詰まりによる炎症」であれば、毎食後のケアで改善が期待できるということを覚えておきましょう。