ある日の診療室での会話です。

患者さん
「先生、この親知らずを抜きたいのですが……」

歯科医師
「かなり深い位置に完全に埋まっていますね。こういう親知らずは抜歯の難易度が高くなることがあります。今回は病院の口腔外科をご紹介しましょう」

親知らずの抜歯について口腔外科を紹介する様子を描いたイラスト。

患者さん
「口腔外科なら、自分でインターネットで探して勝手に行ってもいいんですか?」

歯科医師
「受診できる病院もあります。ただ、今回は紹介状を書きますので、それを持って受診した方がいいですよ」

患者さん
「紹介状って、そんなに大切なんですか?自分で『親知らずを抜いてください』と説明するだけではダメですか?」

実はここに、病院と診療所を結ぶ「紹介状」の大切な役割があります。


〇紹介状には何が書いてある?

一般に「紹介状」と呼んでいますが、医療では**「診療情報提供書」**と呼ばれる文書です。

単に、

「この患者さんをお願いします」

と書いてあるだけではありません。

たとえば親知らずの抜歯を口腔外科へお願いする場合なら、

  • どの歯の処置をお願いしたいのか
  • これまでの経過
  • 現在どのような症状があるのか
  • なぜ病院での処置が必要と判断したのか
  • 服用薬や既往歴など、紹介先に伝えるべき情報

などを必要に応じて記載します。

レントゲンやCTなどの画像情報を一緒に提供することもあります。

紹介状の内容について解説するイラスト。

つまり紹介状は、患者さんが自分で一から説明しなくても、歯科医師から口腔外科の担当医へ必要な医療情報を正確に引き継ぐためのものなのです。


〇紹介状なしで大きな病院へ行ってはいけないの?

では、

「紹介状がなければ大きな病院を受診できないの?」

というと、必ずしもそうではありません。

紹介状がなくても受診できる病院はあります。

ただし、病院や診療科によっては紹介状が必要だったり、予約方法が違ったりします。

そしてもう一つ重要なのが、

紹介状なしで一定の大きな病院を受診すると、通常の診療費とは別に「特別の料金」が必要になることがある

紹介状なしで受信するとどうなるかを説明するイラスト

という点です。

厚生労働省では、特定機能病院や一定の地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関などについて、紹介状を持たずに受診した患者さんに、通常の一部負担金とは別の「特別の料金」を原則として求める仕組みを設けています。

では、なぜこんな仕組みになっているのでしょうか?


〇なぜ紹介状なしだと余分な料金がかかるの?

患者さん
「紹介状を持っていないだけで、どうして余計なお金がかかるんですか?」

歯科医師
「大きな病院と地域の診療所で、役割を分担するためなんです」

たとえば医科で考えてみましょう。

ちょっとした風邪や比較的軽い症状まで、すべての患者さんが大学病院などの高度医療を担う病院へ直接行ったらどうなるでしょう。

大学病院には、

「どうせ診てもらうなら大きな病院の方が安心」

と思う患者さんが殺到するかもしれません。

しかし大学病院や地域の基幹病院には、

  • がんなどの専門的な治療が必要な患者さん
  • 難しい手術が必要な患者さん
  • 診断や治療が難しい患者さん
  • 高度な検査や設備を必要とする患者さん

なども集まります。

比較的軽い病気の患者さんまで大病院に集中すると、本当に高度・専門的な医療を必要としている患者さんの診療に影響する可能性があります。

そこで、

まず地域の医院や診療所で診てもらう
↓
そこで対応できる場合は地域で治療する
↓
専門的な検査や治療が必要なら大きな病院へ紹介する

という医療機関の役割分担が進められています。

どうして余計なお金がかかるのかを解説するイラスト

紹介状を持たずに一定の病院を直接受診した場合に「特別の料金」が設定されているのも、この機能分担を進めるためなのです。


〇歯科でも考え方は同じ

歯科でも同じような場面があります。

たとえば普通に生えている親知らずで、地域の歯科医院で問題なく抜歯できるのであれば、そこで処置できることがあります。

一方で、

「親知らずが顎の骨の中に深く埋まっている」

「下顎管と非常に近い」

「全身疾患があって慎重な管理が必要」

など、より専門的な診断や処置が必要な場合があります。

このような場合には、歯科医院から病院の口腔外科などへ紹介することがあります。

紹介先では、

「この歯科医院では対応できないから送ってきた」

というだけではなく、

どのような理由で紹介されたのか

を紹介状から確認できます。

そのため診療がスムーズになることがあります。

地域の歯科で抜歯できるものと、口腔外科で抜歯してもらうべきものの区別を解説するイラスト

〇紹介状なしだと、いくら余計にかかる?

ここは病院によって違います。

国の制度では、対象となる病院を紹介状なしで初診する場合、「特別の料金」が設定されています。

実際の金額は病院によって異なるため、

「紹介状なしなら必ず〇〇円」

とは言えません。

たとえば東京大学医学部附属病院では、2026年現在、紹介状のない初診患者さんについて13,200円の選定療養費を設定しています。

つまり、

通常の診療費+13,200円

となる場合があります。

選定療養費が病院によって違うことを紹介するイラスト

「紹介状なんて面倒だから、そのまま行っちゃおう」

と思っていると、受付で金額を聞いて驚くことがあるわけです。

ただし、緊急の場合など例外がありますし、そもそも紹介状なしでは受診できない診療科もあります。

受診したい病院が決まっている場合には、事前にその病院のホームページなどで確認しておくと安心です。


〇では紹介状はいくら?

患者さん
「先生、それなら紹介状を書いてもらった方がずっと安いじゃないですか。でも紹介状も有料ですよね?」

歯科医師
「はい。紹介状自体も医療行為なので費用はかかります。ただし、必要性があって保険医療機関へ紹介する通常のケースでは健康保険の対象になります」

2026年度の診療報酬では、一般的な診療情報提供料(Ⅰ)は250点です。

1点10円ですから医療費としては2,500円。

したがって3割負担の患者さんなら、診療情報提供料そのものの自己負担は750円が基本となります。

もちろん、その日の診察や検査などがあれば、それらの費用は別にかかります。

地域の歯科で紹介状を書いてもらうときにかかるコストについて解説

それでも、紹介状なしで対象となる大病院を直接受診して数千円から1万円以上の特別料金を支払う場合と比べると、大きな違いになることがあります。


〇どこの病院でもいいの?

紹介状を書いてもらう際には、

「どこの病院を紹介してもらうか」

も歯科医師と相談しましょう。

患者さんが、

「できれば家から近い病院がいい」

「以前かかったことのある病院がいい」

と希望することもあるでしょう。

一方、歯科医師側にも、

「この症例なら、この病院の口腔外科が適している」

「この病院とは普段から連携している」

などの理由がある場合があります。

紹介先の選び方について解説するイラスト

紹介状には通常、紹介先の医療機関や診療科などを記載します。

そのため、

「紹介状だけください。行く病院はあとで自分で決めます」

よりも、まず紹介先について歯科医師と相談してから作成してもらう方がスムーズです。


〇紹介状は「大病院へ行くための通行手形」ではない

紹介状というと、

「大きな病院へ行くために必要な紙」

というイメージがあるかもしれません。

しかし本来の目的はそれだけではありません。

紹介状は、

「これまで診てきた医療機関」から「これから診る医療機関」へ患者さんの医療情報を引き継ぐもの

です。

そして紹介制度には、

地域の診療所と専門的な医療を担う病院が、それぞれの役割を分担する

という意味もあります。

親知らずの抜歯一つをとっても、

「自分で病院を探して直接行く」

より、

「まずかかりつけの歯科医院で診察を受け、必要なら適切な病院へ紹介してもらう」

方が、診療がスムーズになる場合があります。

さらに、受診する病院によっては紹介状がないことで「特別の料金」が発生することもあります。

紹介状は単なる手紙ではありません。

患者さんの状態を正確に次の医療機関へ伝え、地域の歯科医院と病院をつなぐ大切な医療情報なのです。

紹介状は単なる手紙ではなく、診療情報が含まれていることを解説するイラスト