~見えないところで起こる「歯根破折」とは~
はじめに
「噛むとズキッと痛む」「なんとなく噛みにくい」「被せ物をしている歯が浮いたような感じがする」――。こんな症状が出て歯医者さんに行ったら、「歯が割れているので抜歯しかありません」と言われて驚いた、という方は少なくありません。
実は、歯の根っこ(歯根)が割れる「歯根破折(しこんはせつ)」という状態は、見た目では分かりにくいのが特徴です。しかし一度起こってしまうと、残念ながら多くの場合は抜歯が避けられない病気です。
今回は、歯根破折がなぜ起こるのか、どういうサインで気づけるのか、そして治療の選択肢について詳しく解説します。

歯根破折とは?
歯根破折とは、歯の根の部分にヒビや割れ目が入ってしまう状態を指します。歯は骨に埋まっているため外からは見えません。レントゲンでも初期には写らないことがあり、診断が難しい病気です。
割れ方にはいくつか種類があります。
- 垂直性破折:歯の根に沿って縦にヒビが入る
- 水平性破折:根の途中で横方向に折れる
- 斜めの破折:斜めに割れている
特に問題になるのが「垂直性破折」で、これは細菌がヒビから侵入して歯ぐきや骨に炎症を広げやすいため、抜歯を余儀なくされるケースが多いです。

歯根破折が起こる原因
歯根破折は、ある日突然起こることもありますが、多くは長年の負担の積み重ねによって生じます。主な原因を挙げてみましょう。
1. 神経を取った歯(失活歯)の弱さ
根管治療で神経を取った歯は、水分量が減ってもろくなり、割れやすくなります。特に奥歯は噛む力が強くかかるため、破折リスクが高まります。
2. 金属や硬い被せ物による力の集中
差し歯や大きな詰め物が入っている歯では、噛む力が一点に集中しやすく、それがきっかけで根が割れてしまうことがあります。
3. 噛み合わせや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、常に大きな力がかかり続け、知らないうちに歯根が損傷していくことがあります。
4. 外傷
転倒や事故などで強い衝撃を受けた場合、表面は無傷でも根の部分がヒビ割れてしまうことがあります。

歯根破折の症状
歯根破折は初期には自覚症状がほとんどないため、進行してから気づくケースが多いです。患者さんが訴える代表的な症状は以下の通りです。
- 噛んだときだけ痛い
- 歯が浮いた感じがする
- 歯ぐきが腫れる、膿が出る
- 被せ物がグラグラする
- なかなか治らない歯ぐきの腫れ
特に「噛むと痛いけれど、何もしていない時は痛くない」というのは歯根破折に特徴的なサインです。
なぜ抜歯しかないことが多いのか
「歯が割れている」と聞くと、ヒビを接着剤でくっつけたり、補強して治せるのでは?と思う方もいます。しかし、歯根破折はそう簡単には治せません。
理由は以下の通りです。
- 口の中は常に細菌だらけ
ヒビの中に細菌が入り込み、完全に消毒することができません。炎症が繰り返し起こります。 - 噛む力でさらに広がる
接着剤で一時的に固定できても、強い咬合力によって再びヒビが広がります。 - 骨や歯ぐきの破壊が進む
炎症が続くことで周囲の骨が溶け、歯を支えられなくなってしまいます。
こうした理由から、残念ながら歯根破折は「保存が難しい病気」とされ、多くの場合で抜歯が第一選択となるのです。

もし歯根破折と診断されたら
歯根破折が見つかった場合、歯科医師から「抜歯」を提案されることが多いでしょう。しかし抜いた後にも治療の選択肢はあります。
1. インプラント
抜歯後の骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工歯をかぶせる方法。天然歯に近い噛み心地が得られます。
2. ブリッジ
両隣の歯を削り、橋渡しのように人工歯をかぶせる治療。インプラントより短期間で治療が可能ですが、健康な歯を削る必要があります。
3. 入れ歯
部分入れ歯を装着する方法。費用は比較的抑えられますが、違和感が出やすいのがデメリットです。
歯根破折を防ぐには
歯根破折は一度起こると治すことが難しいため、予防が何よりも大切です。
- 定期検診で噛み合わせをチェック
- 食いしばりのある方はナイトガードを使用
- 神経を取った歯には過度な負担をかけない
- 固いものを無理に噛まない
特に神経を取った歯は見た目では分からなくても脆いので、日頃から「労わって使う」意識が大切です。
まとめ
「噛むと痛い」と感じて歯医者に行ったら、「歯が割れているので抜歯しかありません」と言われて驚く方は多いでしょう。しかし歯根破折は、細菌感染と力の問題から、ほとんどの場合で保存が不可能な病気です。
ただし、抜歯=終わりではありません。インプラントやブリッジ、入れ歯といった方法で再び噛める状態を取り戻すことができます。大切なのは「早めに気づいて、適切な治療に進むこと」です。
「噛むと痛い」というサインを見逃さず、早めに歯科医院を受診してください。