皆さん、ご自身の歯が割れた!という経験はありますか?

歯は身体の臓器の中で最も固い組織であり、毎日の噛む力に耐えられる強い素材です。むし歯でもない健康な歯は、そう簡単には割れません。

しかし、強い力が加わった場合などに割れてしまうこともまれにあります。

そして歯が割れた場合の治療は、非常に難しくなることが少なくありません。

歯科医院には、“歯が痛くなり他の歯科医院に行ったら、割れているから抜歯と言われた。抜かない治療法はないのか”といらっしゃる方がたまに来院されます。

今回は歯の破折はどのようにして起こるのか、その治療法についてご説明します。

〇健康な歯の破折ってなぜ起こるの?

●破折の原因

人間の歯の根の周りには、歯根膜と呼ばれる膜がありセンサーの役割を果たしています。このセンサーからの感覚によって、人は固いものを噛むときや柔らかいものを噛むときの力を調整しています。

しかし、柔らかいと思っていたものの中に固いものが入っていたりすると、その力の調節がうまくいかず、強すぎる力で噛んでしまうことがあります。そうするとその力で歯が割れてしまうことがあります。

ガリっと固いものを噛んでから歯が痛いと来院し、見ると歯にヒビが入っていたという患者さんもいらっしゃいます。

また普段から歯ぎしりや食いしばりの癖のあるかたは、日頃の歯への負担がより大きくなり、歯の破折のリスクが高くなります。

他には、ぶつかったり転んだりといった外傷も歯の破折の原因となります。

●歯の破折の症状

歯の破折が神経まで達しておらず、破折線が歯の表面のエナメル質でとどまっている場合は痛みなどの症状が出ることは少ないです。

破折線がその内側の象牙質にまで達すると、冷たいものが染みたり食事の時に痛みが出たりといった症状が出ます。

破折線が神経や歯の根の深くまで達している場合は、噛んだ時の痛みや何もしなくてもズキズキ痛むといった症状が出る場合があります。

●歯の破折の起きやすい人

噛む力が強い人や、噛み合わせが悪く特定の歯に強い力がかかりやすい方は歯の破折のリスクが高いと言えます。

また、日頃から歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は歯に対する負担が大きいため要注意です。

歯の破折は上顎の第一小臼歯(前から4番目の歯)に起こりやすいと言われています。

〇歯根破折の治療法

●割れた場所が歯茎の上の方だった場合

歯が割れた破折線が歯ぐきの上の位置であった場合、歯の状態によっては抜かずに保存できます。

破折が神経まで達していない場合は被せ物で、神経に達している場合は神経の治療をしてから被せ物で治療を行います。

●割れた場所が歯茎の下の方だった場合

破折線が歯ぐきの下の根の深くまで達してしまっている場合は、治療が非常に困難です。歯が歯ぐきに埋まったまま破折部分を接着することは難しく、そのままにしておくと破折部から細菌や食べ物が入ってしまい歯ぐきが炎症を起こしてしまいます。

破折線が歯ぐきの下まで達してしまっている場合は、根本的な治療法がなく基本的に抜歯が必要となります。

〇割れた歯を無理に残すとどうなるか

歯が割れても、炎症が落ち着いていると強い痛みなどはないことも多いです。今までむし歯にもなっていなかった歯が、いきなり抜歯と言われたら皆さん驚いてしまいますよね。

もちろんご自身の歯は大切ですから、抜きたくない・他の治療法はないのかとおっしゃるお気持ちはよくわかります。

しかし、割れた歯を無理に残してそのままにしてしまった場合、破折線から細菌が侵入し歯ぐきの下で炎症を起こすことで歯の周囲の骨を溶かしていってしまうことがあります。

そのような状態の歯は、いつ強い腫れや痛みの原因になるかわかりません。風邪をひいたり体調が悪くなった時は免疫力が弱くなり、炎症症状は悪化しやすくなります。

また、周りの骨が溶かされていくと割れた歯の隣の歯にまで悪影響が生じ、最悪の場合隣の歯まで抜歯となってしまう可能性もあります。

歯を抜いた後に入れ歯やインプラントなどの治療をする場合でも、骨が溶かされてしまっていると治療が難しくなります。

もちろん歯は大切ですが、残しておいても改善が見込めない歯の場合は早めに抜歯して適切な治療を行うことが周りの歯を守ることにつながります。

〇まとめ

健康な歯が割れることはそれほど頻度が高くはありません。

しかし、歯が歯ぐきの下まで割れてしまった場合は歯を残すことが難しくなります。

歯を抜きたくない、できるだけ自分の歯で食事がしたいという患者さんの考えは当然です。けれども、治療できない歯を無理に残すことは周りの歯への悪影響となります。

状態が悪くなる前に抜歯して、適切な治療を行うことが周りの歯を守ることにもつながります。

歯を抜くことが治療となる場合もあります。治療は患者さんに十分にご納得いただいてから行います。ご不安なことやご不明なことがありましたら、お気軽に歯科医師やスタッフまでお声がけください。