インプラント治療は他の補綴治療と比べて治療期間が長くなってしまうことが多くあります。即時・早期荷重を行う歯科医院もありますが、遅延荷重させることもあります。今回はインプラントの荷重時期について確認してもらうようにしています。
〇インプラントとあごの骨はどのように結合する?
インプラント治療においてのデメリットの1つとして、他の補綴治療(歯がない部位を補う治療)と比べて治療期間が長いことが挙げられます。 手術をしたのにすぐに噛めないの?と思われるかもしれませんが、これにはいくつかの理由があります。 これを知っていただき今後のインプラント治療の流れをある程度把握しておきましょう。
●インプラントとあごの骨が結合する過程 ~手術直後~
インプラントは顎の骨とくっつくことで機能します。 専門的にはこれをオッセオインテグレーションと呼んでいます。 オッセオインテグレーションはインプラント体(顎に入れるネジ)を入れてからどの程度で獲得できるのでしょうか。 インプラントを顎に入れた直後はネジを木に打ち込むように、ねじ込んで支えられています。 この機械的に固定されている状態はまだオッセオインテグレーションの獲得はできておらず、初期固定と呼ばれる状態です。 まずはこの初期固定がしっかりと得られるか否かで今後の被せ物を入れる時期が変わってきてしまいます。
●インプラントとあごの骨が結合する過程 ~手術から約4週後~
インプラント体を入れてから4週間ぐらいまでの間に顎の骨に入れたインプラント周りの細胞は変化をしていきます。 まず初期固定は手術後から徐々に安定度が落ちていきます。 機械的に固定していた周囲の骨が壊れていき、新しい細胞に置き換わっていく過程で固定が弱くなってしまうのです。 この時期がインプラント治療の要の時期になります。 固定の弱くなっている時期に機械的な刺激や細菌感染などの炎症が起こると途端に状況が悪化してしまうことがあります。 そのためこの期間は安静にしておくことが必要です。
●インプラントと顎の骨科結合する過程 ~約4週後から8週後~
手術後4週間後から顎の骨が新しい細胞に置き換わることで、徐々に新しい細胞とインプラント体が結合していきます。 この状態をオッセオインテグレーションと呼びます。 初期固定と対比して2次固定と呼ばれることもあります。 このようにして骨と結合するため、約8週間は待機してインプラントと骨がくっつくのを待つことがあるのです。 初期固定があまり得られない場合は、念のためさらに待機する時間を設けることもあります。
〇インプラントに負荷をかける時期の違い
インプラントに荷重をかける時期はインプラント体を入れた後の経過時間によって名称が変わります。大まかに3つに分けられます。
①待時荷重
②早期荷重
③即時荷重
それぞれを確認しましょう。
●待時荷重とは
待時荷重はさらに通常荷重と遅延荷重に分かれます。 前者はインプラントを埋入してから2ヶ月後、遅延荷重の場合は3から6ヶ月以降となります。 初期のインプラントの方法では下顎は顎の骨がしっかりしているので3ヶ月、上顎では骨が疎なので6ヶ月待ってから上部構造の治療に移ることを1つの指標としていました。 現在でもその方法を取ることもあります。
●早期荷重とは
早期荷重はインプラント埋入から1週間から2ヶ月以内の時期に上部構造または一時的な仮歯を入れて荷重をかける場合が相当します。 前述のようにオッセオインテグレーションが得られるのは4週以降となるので、初期固定が十分に得られていないと難しくなります。
●即時荷重とは
即時荷重では早期荷重よりもさらに早く、埋入直後から1週間以内に上部構造または一時的な仮歯を入れて荷重をかける場合が相当します。 一般的には見た目の回復に重きをおき、荷重はあまりかけない場合が多いです。 前歯のインプラント治療など条件が限られた場合において行うことがあります。
〇荷重時期を左右する要因
荷重時期の違いによる名称の違いを理解した上で、どのような場合に荷重時期を早めたり逆に遅くしていくのかを確認しましょう。
荷重時期の延長や短縮はいくつかの因子によって左右されます。
①患者
②インプラント体
③インプラント埋入における条件
が主なものです。
●時期を左右する因子 ①患者
『患者』とは例えば口の中の清掃状態や噛み合わせ、全身疾患の有無、服薬状況などが該当します。
●時期を左右する因子 ②インプラント体
『インプラント体』とはインプラントの形態が主に関与します。 例えばインプラントの直径や長さ、太さなどが該当します。 インプラント体の表面性状も関与します。 現在使用されている主流メーカーのインプラント体は工夫がされており、2次固定までの期間が短縮出来ると謳われているものも出てきています。
●時期を左右する因子 ③インプラント埋入における条件
『インプラント埋入における条件』とは初期固定の有無やインプラントの本数、骨の硬さなどが該当します。 最終的な補綴物をどのようにしていくのか(例えばブリッジや入れ歯)ということも因子の1つです。
同じインプラントを同じ患者さんでやる場合でも、埋入場所が異なれば条件が変わります。 他人ではなおさら条件が異なるので、全ての人が同じような荷重時期で行うことが正しい治療法とは必ずしも言えません。 荷重時期を早くしたい場合にはリスクが伴うことがあるので十分に注意が必要です。
〇まとめ
インプラント治療をしてから、すぐに噛めるようにしたいと思う患者さんは多いと思います。 しかし、様々な因子が絡むので状況によっては難しい事もあります。 特に埋入後すぐの荷重は、トラブルを引き起こす可能性があるので十分に注意が必要です。 早めの荷重が可能かどうかは実際に手術をしてからでないと分からないこともあります。 加えて、2次固定が得られているかどうかは、レントゲン写真やCTでは分からないことが多いです。 リスクを伴う場合には遅延荷重を行う方がリスクを下げることにつながるでしょう。